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51.王女の旅路
しおりを挟む「まさか、こんなことになるなんてな」
ウルス隊長は信じられんと言う表情でリートとラーグの顔を見る。
そのニュースは一気に王都中に広まった。
東方騎士団長がリートへの妨害行為で部下の数名と同時に逮捕された。
既に証拠が揃っており、言い逃れはできない状況だった。
そして、団長は、あくまで黒幕はウェルズリー公爵であり、自分は指示に従っただけだといいのがれをしたことで、ウェルズリー公爵も王宮に呼び出され、憲兵の取り調べを受けることになった。
しかし、ウェルズリー公爵は容疑に対して真っ向から否定。
そして東方騎士団長がリートを陥れた証拠は数多くあったのとは対照的に、ウェルズリー公爵の関与を示す証拠は皆無だった。
それゆえ公爵はお咎めなし、と言うのが結論に至った。
つまり、東方騎士団長の一人負けである。
――もっとも、取り調べの中で、彼がそれまで出世したさに散々悪事を働いてきたことも露呈している。
同情の余地は皆無だった。
†
「東方騎士団長 オスカー・ランドルベンに刑を言い渡す」
――東方騎士団長の逮捕から一ヶ月。
彼の有罪は既に決定しており、今日いよいよ彼に対する罰が言い渡される。
「――官職と爵位を剥奪。クランド鉱山での労働10年とする」
クランド鉱山といえば、この大陸でもっとも過酷な鉱山だ。
数々のならず者がぶち込まれている。
――戦闘系のスキルを持っている者はその能力を封印される。
そうなれば彼はただの初老の男だ。
おそらく鉱山での労働には耐えられないだろう。
――東方騎士団長は、全てを失ったのだった。
†
「まさかこんな形で中隊長になれるとは」
騎士団長とその側近たちの失脚に伴い、急遽、騎士団の垣根を超えた大幅な人事異動が行われた。
東方騎士団を立て直すため、近衛騎士団からも幹部が送り込まれた。
その中には、ウルスの上司である王室第一護衛中隊長も含まれていた。
結果、ウルスはそのまま中隊長に繰り上がりになったのだ。
これで彼は騎士で構成される第一護衛隊と、騎士ではない衛兵の所属する第一警備隊の二つを総括する立場になった。
ただし部下に第五位階以上の適格者がいなかったので、ひとまず第一護衛隊の隊長は兼務となる。
「俺にとっては、“サインをする”仕事が増えたがな、まぁ君たちにとっては今までとかわらんさ」
ウルス隊長、改め中隊長は屈託無く笑う。
「騎士団は激動の時代だ。気になる話も色々あるだろう。だが、仕事は仕事だ。なにせ、これから久しぶりの大仕事が待っているんだ」
「大仕事、ですか」
「そうだ――イリス王女様が、クラン辺境伯領へ向かわれることになった」
――クラン辺境伯領は、ローレンス朝の外縁部にある。
「先の辺境伯が亡くなって、新しい辺境伯が跡を継いだ。そのお祝いのための訪問だな」
それはリートにとって初めてのイリスの護衛任務だった。
国内とはいえ、王宮にいるのとはわけが違う。
モンスターや盗賊に襲われる可能性もない訳ではない。
イリスに万が一のことがないように、細心の注意が求められる任務だ。
「あまり近衛騎士らしい仕事はないに越したことがないんだがな。宮廷から出る以上絶対安全はありえない。だが、それでも万が一があってはいけないのだ。心してかかれよ」
「はい、隊長」
†
それから一ヶ月が経ち、とうとう今日からクラン辺境伯領への旅路へ就く。
旅には王室第一護衛中隊全員が参加する。
即ち、第一護衛隊の騎士3名、第一警備隊の警備員30名の大所帯で300キロ先の辺境伯領を目指す。
行き帰りそれぞれ5日、そして滞在が15日、合計25日の大旅程だ。
――そして旅立ちに際して、当然リートはアイラを竜飼いの元へと預けに行くことになる。
アイラは生まれてだいぶ経ち、体も少しずつ大きくなっていた。
そしてそれに伴って、少しずつ性格も“大人”になり、前よりだいぶ甘えなくなってきていた。
……相変わらず俺が女の子と話していると翼をばたつかせるのだが。
「――アイラ、ごめんな。今日から20日戻ってこないんだ」
リートはアイラの頭を撫でながら言う。
――すると、アイラは「くぅぅぅ!!」と勢いよく鳴いて、リートの周りをぐるぐる周り出した。
これは――素直に置いていける雰囲気ではなかった。
最近は、竜飼いに預けに来ても、それほど暴れることがなかったので、リートは少し驚いた。
やはり、一ヶ月近く会えないとなると、流石に寂しいのだろうか。
「騎士さんね、アイラは寂しがってるんじゃないよ」
と、竜飼いのおばちゃんがそう言う。
「そうなんですか」
「ああ。自分も戦えるんだって、そう言ってんだ」
「戦える?」
「あたしにゃわかるが、ちょっと凛々しくなってきたよ。“変身”できるようになる時が近づいているんだ」
「……そうなのか、アイラ」
聞くと、アイラは前足を腰につけて胸を張る仕草をした。
「りゅー!」
……どうやら、竜飼いの言う通りらしい。
「今回は任務に連れていってやったらどうだ。もしかしたら一ヶ月の間に“変身”できるようになるかもしれんよ」
「……辺境伯領にクロワッサンは売ってないからな。しばらく食べられないけどいいか?」
リートがアイラに聞くと、
――しゅん。
途端に首をガクッと落とすアイラ。
「……おい、大丈夫か?」
だが、少ししてからアイラは首をブルブル振ってリートの方をまっすぐ見た。
「りゅッ!」
「そうか。じゃぁ一緒に行こう」
「りゅーーーッ!!」
――王宮を出るとはいえ、平和な時代だ。
きっとただの旅行に終わるはず。
だから危険はない。問題はないはずだ――
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