上 下
23 / 51

23.初めての任務

しおりを挟む

 決闘会の翌日、リートはウルス隊長に呼ばれて騎士の事務所へ赴いた。
 
「まずは決闘会、優勝おめでとう。護衛隊の優勝者が我が隊に来てくれて力強いよ」

「いえ、たまたまです……」

 リートは謙遜ではなく心の底からそう思っていた。

 ――頭の中に浮かんでいたのは、ウィリアム・アーガイルの存在だった。
 相手の降参で勝利したが、明らかに相手は本気を出していなかった。

 そして本気を出していたリートに対して、ウィリアムは全く本気ではなかった。
 だから、優勝したのは嬉しいが、素直に喜んでもいられなかった。

 自分より強い人間はたくさんいる。
 だからもっと頑張らなければ。
 リートはそう決心していた。

 ――ウルス隊長には色々教えてもらおう。

 リートはそれを楽しみにしていた。
 ウルスはイリス王女を護衛する、王室第一護衛隊の隊長であり、リートの上司になる。
 これから行動を共にする機会は大いにある。

「さて、今日から任務についてもらう。早速だが、俺と一緒に少し遠出をするぞ」

 初めての任務。
 リートは黙ってウルス隊長の説明を聞く。

「王都から南西に100キロ離れたところにあるウルタン村でのリザードマン退治が今回の任務だ」

「王女様の護衛ではないんですね」

「近衛騎士は有事には王族をお守りするのが仕事だが、王女様が王宮にいる限り、危険はほとんどない。だから普段は他の騎士団同様、民を守る任務につくんだ。王族直属の部隊として腕を磨き、さらには民や他の騎士団に威信を保つ目的もある」

「なるほど」

「では早速だが出発だ。おそらく一週間くらいは戻らないからそのつもりでいてくれ」

「承知しました」


 †

 リートとウルスは朝のうちに王都を出発し、夕方には目的地のウルタン村にたどり着いた。

 ウルタン村は決して大きくはない集落だった。
 人口は百人程度。

 山の麓にあり、ポツポツとある建物のほとんどは1階建の小さいものだ。
 産業などはなさそうで、自給自足の生活をしているようだ。

「――騎士様。よくぞおいでくださいました」

 村に着くと、白髪のおじいさんが出迎えてくれる。

「村長をやらせてもらっています。ヘンリーと申します」

 村長は、物腰が低く優しい印象のおじいさんだったが、どこか気品を感じさせた。

「私は近衛騎士団第一護衛隊の隊長のウルスです。そしてこちらはリート。今回は二人で任務を担当させていただきます」

 ウルスが自己紹介すると、また村長は一礼した。

「リザードマンたちがいつ村を襲ってくるかとビクビクしていました。何卒、よろしくお願いします」

 今回の任務は、村の近くにいるリザードマンの駆除だった。

 山にリザードマンが住み着き、村の剣士が退治しようと試みたが返り討ちにあったらしい。
 それで騎士団に助けを求めたのだ。

「数はどれくらいか、ご存知ですか」

 ウルスが尋ねると、村長が首を振った。

「わかりません。ただ、村の者曰く、山奥の洞窟の近くで何十匹もの群を見たとのこと」

「すると、数百体は潜んでいるかもしれませんね。駆除には多少、時間がかかるかもしれません。私とリートが交互に山に入り、片方は村に残って村人を守ることにしましょう。リザードマンは夜行性ですから、活動が活発ではない昼に駆除に行きます」

 ウルスが作戦を簡単に説明した。
 
「お願いします……。では、お二人に滞在していただく家にご案内します。粗末なものですが、ご容赦ください」

「いえいえ、お気遣い感謝します」

 村長は、二人の先導に立って家まで案内してくれた。

 ――とその道中、向こうから子供が走って来た。

 6、7歳ほどの小さな女の子。

「騎士様! 助けに来てくれたんですね!!」

 と目を輝かせてリートたちの元に駆け寄ってくる。
 青い目の利発そうな少女だった。

「おさわがせしてすみません。孫のリリィです。騎士殿が来るのを楽しみにしていたようで……」

 村長が紹介してくれる。
 リートはかがんでリリィの目線に合わせて挨拶する。

「こんばんは、リリィ。俺はリート、よろしくね」

 リートが言うと、リリィは無邪気に尋ねてくる。

「リートさん! リザードマン、明後日までにやっつけられるよね!?」

 ――突然、そんなことを言われて、リートは驚いた。

「明後日? 明後日に何かあるの?」

 リートが聞くと、リリィは両手の拳を胸の前で握って言った。

「明後日は”お星様の日”なの! だから山に登れば、お母さんとお父さんに会えるんだよ」

「……お星様の日? お母さんとお父さん?」

 リートは言葉を繰り返してリリィに説明を促した。
 だが、その答えが返ってくる前に、村長がリリィをたしなめる。

「こらリリィ。無理を言うんじゃない! リザードマン退治は危険なんだよ。騎士さんたちを焦らせちゃいけない」

 すると、リリィは急に泣き出しそうになる。

「……それじゃぁ……今年はお母さんに会えないの?」

 その顔を見て、村長はばつが悪そうにした。

「“お星様の日”は来年もある。今年は我慢するしかないんだよ、リリィ」

 村長が言い聞かせるように言うと、リリィは泣き出してしまった。
 すると、その会話を聞いていたのだろうか、家の中から中年の女性が出てくる。

「リリィ、泣かないの。こっちおいで。ご飯を食べましょ」

 と、女性はリートたちに一礼してリリィを家の中に連れていった。
 リートたちに気を使ったようだ。

「すみませんな。孫がお騒がせしてしまって」

 村長が申し訳なさそうに言う。

「あの、“お星様の日”って何ですか?」


「村の言い伝えです。この季節は空が澄んでいましてな。お星様の日には、死者が山に降りてくると言われているのです。あの子は両親を亡くしましてな……。お星様の日を楽しみにしていたんですが、今年はリザードマンが山にいますから。それどころではなく、残念がってしまって」

「そうなんですか……」

 かわいそうに思ったリートだったが、その様子を見て村長は「気にしないでください」と二人を気遣う。

「今、夕飯をお持ちします。今夜は何卒ゆっくりしてください……」

 村長は再び歩き出して、二人を家の前まで案内してくれる。
 小さいが部屋は別々に用意してくれていた。

「それでは、村の者が夕飯をお持ちしますので、しばらくお持ちください。私の家は向かいですから、何かあれば遠慮なくお申し付けください」

 そう言って村長は踵を返す。
 その後ろ姿を見送ってから――リートはウルス隊長に尋ねた。

「あの、夕飯の後は自由行動でいいですか?」

「もちろんだが……何か用があるのか?」

 隊長の質問に、リートは答える。

「ちょっと稽古をしたいので、村の外に」


 †
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...