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第六話 一方、軍師を失ったドラゴニアでは
1.
しおりを挟む――一方。ドラゴニアでは。
キバを追い出した国王ヘンリーは、自身の名声を高めるために、七王国の一角、南方のバイバルスへと大規模な攻勢をかけることにした。
国境付近の城に出向き、自ら攻勢の陣頭指揮を取ることを配下の軍人たちに告げる。
兵士四万を集めて、バイバルスの主要都市の一つである、ライバへと向かった。
ライバの街は、東西に横長に伸びるバイバルスの中間地点にある。交通の要衝となっており、ここを抑えることができれば、バイバルスを分断できる。
「陛下、本当にライバへ攻め入るのですか?」
辺境伯であるウルス中将が、ヘンリーに尋ねる。
「もちろんだ。何か異論があるのか?」
「いえ、陛下。ただ、ライバには五万の兵力があります。数的にこちらが不利な状況です」
ウルス辺境伯は、キバと共に戦ってきた将軍だった。
キバの戦略家としての才能を認めており、戦略を練る際には常にその声に耳を傾けてきた。
それゆえ、今回のバイバルス遠征は無謀だと理解していた。
策もなく少ない兵士で戦いをしかけてはいけない。それはキバがなんども口すっぱくウルス辺境伯に言ったことだった。
だが、それを今国王ヘンリーは平然と破ろうとしている。
「確かに数では劣るかもしれない。だが、我がドラゴニアは最強だ! 現に、先の戦いでも、寡兵で敵を破ったではないか!」
ヘンリーは威勢良く言った。
「しかし陛下。あれはキバ殿の奇策があっての……」
と、ウルス辺境伯が“キバ”の名前を口にした瞬間、ヘンリーは激昂する。
「ええい。あの無能軍師がどうした!? あの無能などより、私の軍略の方がはるかに優れておるわ」
ウルス辺境伯は、主君の言葉にそれ以上反抗できなかった。
反抗したところで、自分一人が首になるだけだ。
そうなっても誰か別のものが将軍になって、結局遠征は行われる。
王をたしなめてもいいことは一つもないのだ。
「とにかく。私に任せよ。この戦、必ず勝ってみせるぞ」
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