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第一話 追放者、辺境の小国へ
8.
しおりを挟む打ちひしがれるルイーズに、キバは冷静にその敗因を告げた。
「戦で勝つ方法は、戦のその瞬間に相手より強い戦力で戦うこと、ただそれだけです」
戦が始まったら、勝敗を分けるのはお互いの戦力だ。
相手より強ければ勝つ。
だから相手より戦力が強い状態を作り出す。
ただそれだけのこと。
キバたちは敵を分断して各個撃破するという、極めて王道の作戦をとったに過ぎないのだ。
「……確かに兵を分断してお前らを追いかけたのは愚策だった……」
ルイーズはそう悔やむ。だが、それは少し間違っていた。
「そもそも、あなたは兵を分断するという判断を自分で下したのではありませんよ。あなたは兵を分断せざるを得ない状況だったのです」
キバはそう説明した。
「兵を分断せざるをえない……だと?」
確かに、兵を分断してはいけないというのは、戦において鉄則。
それでもルイーズがその鉄則を破ったのは、なにも偶然や判断ミスではなかった。
全ては、キバの計算どおりだったのだ。
「あなたが兵を分けた理由。それは一言で言ってしまえば焦りです。しかも焦る理由は二つもありました」
「二つ……だと?」
「一つめは、アルザス軍によって兵糧を焼かれたこと。これで長期戦はできなくなりました」
これは昨日キバが意図的に作り出した状況だ。
だが、これだけならば、まだルイーズも冷静でいられただろう。
でも、焦る理由はそれだけではなかった。
「二つ目は、ラセックス本国では、ノーザンアングルとの戦いがまだ続いていて、あなたはすぐに本国に引き返す必要があったことです」
ルイーズは、七王国の一つ、ジュートと戦って勝利を納めた後だった。
だが、ラセックスはそれとは別に、七王国の一つ、ノーザンアングルとも交戦している。ルイーズたちも、すぐにノーザンアングルとの戦いに向かう必要があったのだ。
あくまでその途中にアルザスがあったので立ち寄っただけで、この征服は彼女にとって「寄り道」に過ぎなかったのだ。
それゆえ、精神的な意味でも時間がなかったのだ。
「確かに……その通りだ。……本気でお前たちを叩く時間さえあれば……」
ルイーズは再び自分のミスを悔やむ。だが、それもやはり間違いだ。
「それは違いますよ」
「……なんだと?」
「そもそも、ラセックスがノーザンアングルと戦うはめになったのは、俺の策略ですから」
「なんだと!?」
「俺がドラゴニアにいたときにノーザンアングルと同盟を結んで、ノーザンアングルをラセックスとの戦いに専念させたんです。最も強力なドラゴニアが攻めてこないと分かれば、ノーザンアングルは安心してラセックスと戦えますからね」
ルイーズが隊を分断してまでアルザス軍を倒すことを急いだのは、時間がなかったから。
そして、その時間がないという状況は、全て、キバが意図的に作り出した状況だったのだ。
「私は……お前の手のひらの上で転がされていたというわけか」
ガクッとうなだれるルイーズ。
その瞬間、アルザス兵たちから歓喜の雄叫びがさらに大きく上がったのだった。
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