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第一話 追放者、辺境の小国へ
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キバの率いるアルザス軍は、城の裏手で二手に分かれ一目散に逃げ出した。
キバが予想した通り、ラセックス軍は隊を二つに分けてアルザス軍を追いかけてきた。
もちろん元々勢力差があるので、ラセックス軍が半分に分かれても、こちらも半分に分かれている以上、こちらが劣っている状況は変わらない。
――だがそれもこの瞬間だけだ。
キバたちは、全速力で森の中を駆け抜けていく。
ラセックス軍も追いかけてはくるが、地の利があるのでなかなか追いつくことができない。
――そして、おいかけっこをはじめて、十分ほどしたところで、キバの軍隊は行き止まりにぶち当たる。
森を抜けた先、そこには川が広がっていた。
開けているが、行き止まりで、橋もなくこれ以上前には進めない。
「追い詰めたぞ……! どうやら逃げ回るのもここまでのようだな」
ラセックス軍を率いる副官が、高らかに宣言した。
だが、キバは毅然とラセックスの軍隊に向き直る。
「それはどうかな?」
アルザス軍300人に対して、鉄鬼軍は精鋭揃いの500――
アルザス軍は武器を構えるが、魔法のプロであるラセックスのと真っ向から立ち向かえば、あっという間に蹴散らされるだろう――
ラセックスの兵士の誰もが勝利を確信した次の瞬間。
「突撃!」
響いた声は――王女エリスの高らかな声だった。
「なんだと!」
ラセックスの兵士たちが全く予想していない展開。
側面から、アルザス軍の残りの半分が突然現れたのだ。
「バカな!」
やつらは、ルイーズ将軍が追いかけていたはず!
それなのに、ルイーズ将軍はみあたらず、ラセックス軍はアルザスの全軍に取り囲まれてしまったのだ。
ラセックス軍に動揺が走る。
副官も一体何が起きているのか、把握ができない。
だが危機的状況だということだけはわかった。だから部下に檄(げき)を飛ばす。
「ひるむな! 敵は所詮、寄せ集めだ!」
ラセックスの副官は叫ぶ。だが、無駄だった。
不意打ちにあった上、自分たちより数で勝る敵に挟み撃ちにされては、さすがの鉄鬼軍もひとたまりもない。
――勝敗はあっという間についた。
もはや勝利は不可能と悟ったラセックス軍はあっけなく降伏した。
「すごいです! 軍師様! 軍師様の言うとおりにしたら、あっという間に敵を倒すことができました!」
アルザスの兵士たちがキバに喜びを伝える。
「まぁたいした作戦ではなかったですけどね」
――キバの作戦はとてもシンプルだ。
自分たちが分裂して逃げたと見せかけて、敵を分断して、地の利を活かして、その片方ずつを各個撃破する。
戦の基本のキの字に従っただけ。
――もっとも、そのためにいくらか用意はしていたのだが。
「さぁ、残党を片付けに行くぞ!」
そう言って、アルザス軍たちを鼓舞する。
と言っても、パフォーマンスで士気を高めただけで、ここから簡単な仕事だ。
エリスたちを追いかけた、敵の大将ルイーズの一団を、その倍近い戦力で倒すだけ。
「今頃、川をわたっているはずだ。そこを叩く」
「承知しました!」
アルザスの全軍はそのまま北上して、ラセックスの残りの兵を発見する。
キバの読みどおり、ちょうど川に氷の橋を架け終えて渡ろうとしていた。
「なにっ!?」
突然、アルザスの全軍が現れたことに動揺するルイーズ。
「奴らを追いかけた味方はどうしたのだ!?」
ルイーズが状況を飲み込めないうちに、アルザス軍が襲いかかる。
「炎の攻撃で橋を壊せ!」
橋を渡っている途中のラセックス軍は、突然の敵襲になすすべもなく崩壊する。まともな戦闘にさえならない。
先頭にいたルイーズとわずかな兵がなんとか橋を渡り終えるも、数の差は歴然だった。
もはや戦うという選択肢はない。
ルイーズは、何が起きているのかを把握しないままに降伏せざるを得なかった。
「バカな……私が負けるなんて……しかも、こんな弱小国に……」
ルイーズは、自分が負けたことを全く受け入れられないでいた。
なぜ自分が負けたのか理解できないのだ。
「ルイーズ殿下、あなたは最初から負けていたんです」
†
キバが予想した通り、ラセックス軍は隊を二つに分けてアルザス軍を追いかけてきた。
もちろん元々勢力差があるので、ラセックス軍が半分に分かれても、こちらも半分に分かれている以上、こちらが劣っている状況は変わらない。
――だがそれもこの瞬間だけだ。
キバたちは、全速力で森の中を駆け抜けていく。
ラセックス軍も追いかけてはくるが、地の利があるのでなかなか追いつくことができない。
――そして、おいかけっこをはじめて、十分ほどしたところで、キバの軍隊は行き止まりにぶち当たる。
森を抜けた先、そこには川が広がっていた。
開けているが、行き止まりで、橋もなくこれ以上前には進めない。
「追い詰めたぞ……! どうやら逃げ回るのもここまでのようだな」
ラセックス軍を率いる副官が、高らかに宣言した。
だが、キバは毅然とラセックスの軍隊に向き直る。
「それはどうかな?」
アルザス軍300人に対して、鉄鬼軍は精鋭揃いの500――
アルザス軍は武器を構えるが、魔法のプロであるラセックスのと真っ向から立ち向かえば、あっという間に蹴散らされるだろう――
ラセックスの兵士の誰もが勝利を確信した次の瞬間。
「突撃!」
響いた声は――王女エリスの高らかな声だった。
「なんだと!」
ラセックスの兵士たちが全く予想していない展開。
側面から、アルザス軍の残りの半分が突然現れたのだ。
「バカな!」
やつらは、ルイーズ将軍が追いかけていたはず!
それなのに、ルイーズ将軍はみあたらず、ラセックス軍はアルザスの全軍に取り囲まれてしまったのだ。
ラセックス軍に動揺が走る。
副官も一体何が起きているのか、把握ができない。
だが危機的状況だということだけはわかった。だから部下に檄(げき)を飛ばす。
「ひるむな! 敵は所詮、寄せ集めだ!」
ラセックスの副官は叫ぶ。だが、無駄だった。
不意打ちにあった上、自分たちより数で勝る敵に挟み撃ちにされては、さすがの鉄鬼軍もひとたまりもない。
――勝敗はあっという間についた。
もはや勝利は不可能と悟ったラセックス軍はあっけなく降伏した。
「すごいです! 軍師様! 軍師様の言うとおりにしたら、あっという間に敵を倒すことができました!」
アルザスの兵士たちがキバに喜びを伝える。
「まぁたいした作戦ではなかったですけどね」
――キバの作戦はとてもシンプルだ。
自分たちが分裂して逃げたと見せかけて、敵を分断して、地の利を活かして、その片方ずつを各個撃破する。
戦の基本のキの字に従っただけ。
――もっとも、そのためにいくらか用意はしていたのだが。
「さぁ、残党を片付けに行くぞ!」
そう言って、アルザス軍たちを鼓舞する。
と言っても、パフォーマンスで士気を高めただけで、ここから簡単な仕事だ。
エリスたちを追いかけた、敵の大将ルイーズの一団を、その倍近い戦力で倒すだけ。
「今頃、川をわたっているはずだ。そこを叩く」
「承知しました!」
アルザスの全軍はそのまま北上して、ラセックスの残りの兵を発見する。
キバの読みどおり、ちょうど川に氷の橋を架け終えて渡ろうとしていた。
「なにっ!?」
突然、アルザスの全軍が現れたことに動揺するルイーズ。
「奴らを追いかけた味方はどうしたのだ!?」
ルイーズが状況を飲み込めないうちに、アルザス軍が襲いかかる。
「炎の攻撃で橋を壊せ!」
橋を渡っている途中のラセックス軍は、突然の敵襲になすすべもなく崩壊する。まともな戦闘にさえならない。
先頭にいたルイーズとわずかな兵がなんとか橋を渡り終えるも、数の差は歴然だった。
もはや戦うという選択肢はない。
ルイーズは、何が起きているのかを把握しないままに降伏せざるを得なかった。
「バカな……私が負けるなんて……しかも、こんな弱小国に……」
ルイーズは、自分が負けたことを全く受け入れられないでいた。
なぜ自分が負けたのか理解できないのだ。
「ルイーズ殿下、あなたは最初から負けていたんです」
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