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第5章:建国式典
第227話:冒険者と騎士
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ゾンダル子爵が連れて行かれたのを確認し、
「では、コトハ殿。その素晴らしいゴーレムや魔法武具を用いて、南方の守護を任せるとしよう」
「了解」
と、再度確認する。
今度は反論のざわめきすら起こらなかった。相変わらず鬱陶しい視線は感じるが、それも、まあ、いい。
先ほどマーカスに、その貴族を特定して、誰なのかを確認するように頼んでおいた。身元が割れれば、どうとでも対策は立てられる。
そして最後に、
「此度の一件は、建国式典前という非公式の場であること、クルセイル大公の寛大な対応によるものであることを皆々、肝に銘じよ。今後、ゾンダルのような振る舞いを許すことはない。よいな!」
ハールさんが宣言し、一斉にひれ伏す貴族たち。
非公式の場ってのは、建国式典も爵位の授与も行われていない段階での謁見なので、厳密にはハールさんは国王ではないし、私や他の貴族も爵位などない。その段階での謁見だから、特別ってことだ。
確かに、あんなの毎回許してたら身分制社会が崩壊する。
これを最後に、謁見は終了した。
私たちは退場する。貴族の間を通り部屋から出る際には、多くの貴族から視線を向けられたが、まあどうでもいい。私とハールさんの関係を見て、私との関係を強めたいと思ったのか、武器やゴーレムを買いたいと思ったのか、文句でも言いたいのか・・・
面会の申し入れでもあれば考えるが、基本的にレーノがブロックする。相手が高位の場合や、私に確認した方がいいと思った場合にのみ、確認しにくる。その判断は難しいので、結構確認が来るが、まあレーノの説明を聞いて興味が無ければ断るだけだから、別に問題ない。
♢ ♢ ♢
謁見の間から出ると、待機していた近衛騎士に案内され、借りている客間に戻った。
一息つき、
「みんなお疲れ様。カイト、ポーラ、どうだった?」
と聞いてみた。
「最初は予想通りだったけど、途中からハラハラしたよ! コトハお姉ちゃんが、あの貴族に喧嘩売るから・・・」
とカイトに愚痴られる。
「いや、どっちかというと、私が喧嘩売られたんだけど・・・」
「確かに騎士ゴーレムの性能に言いがかりは付けられたけど・・・。にしても、あそこまで煽らなくてもよかったんじゃないの?」
「まあね。けど、喧嘩売られたんなら、しっかり買い取っておかないとね。それに、言われっぱなしじゃなめられるでしょ? それは、貴族的には良くないんだろうし」
「それはそうだけど・・・」
カイトは完全には納得していないようだが、特に怒っているわけでもなく、焦ったという程度の話だったので、矛を収めてくれた。
それに対しポーラは、
「コトハ姉ちゃん。ゴーレムと戦った人、結構強かったよね」
と、ライゼルさんに興味があるようだった。
「そうだねー。2回目の攻撃を喰らったときは、正直焦ったよね・・・」
と返すと、カイトも会話に加わってきた。
「動きの速さや重さもそうだけど、『風魔法』で加速したり、魔法をフェイントに使ったり、見てて勉強になったよね」
と感心していた。あれを、勉強と捉えているところがカイトらしいが、勉強になったというのは同感だ。騎士ゴーレムに仕込む命令式の内容を含めて、対人戦をしっかりと、具体的に想定する必要があるのだと実感した。
そういえば、
「やっぱりさ、ライゼルさんみたいな優秀な人が、どうしてあんなのに仕えてるのか気になるよね。マーカス、プラチナランクの冒険者って儲かるよね?」
と、気になってたことを聞いてみた。
「はい、もちろんです。高ランクの依頼を受け、それを達成すれば当然、多額の報酬を獲得できます。また、依頼を受けたのがプラチナランクの冒険者だと知れば、感謝も込めて報酬を増額することも珍しくないです。良い関係を築きたいと考える者も多いですから。騎士に転身する者もいることにはいますが、条件が良かったり、個人的に親しかったりしなければ、基本的にオファーは受けないでしょうね」
マーカスの話によれば、プラチナランクの冒険者が騎士になる場合は、優位な立場にあるのは冒険者側らしい。
「けど、相手は貴族なんでしょ? 断ったりできるもんなの?」
「そうですな・・・。確かに、高ランクといえど平民は平民。貴族とは明確に立場の違いがあります。しかしプラチナランクともなれば、事情が異なります。ゴールドランクやシルバーランクであっても、多くの冒険者にとっては憧れの対象であり、市民にとっては自分たちを守ってくれる英雄です。目に見えて生活を守っているのは、騎士団ではなく冒険者ですからね」
「なるほど・・・」
「その最高位ともなれば当然」
納得だ。
冒険者にとっては、目指すべき先であり憧れの対象。市民にとっては、魔獣・魔物を狩り、盗賊を討伐することで、生活を守ってくれる存在。領民の暮らしを守るのは領主の仕事であるとはいえ、それを目に見えて行うのは、領主の指揮下にある騎士団というよりは、冒険者になるわけだ。
「そうすると、前のバイズ辺境伯領だと違ったの?」
バイズ辺境伯領では、クライスの大森林やその周辺に生息する強力な魔獣・魔物の対策として、騎士団が全面的に投入されていた。
「バイズ辺境伯領では、騎士団と冒険者が協力関係にあるというのが一般の認識だったと思います。ただ、強力な魔獣・魔物が出現した際には、素早く騎士団が総力で対応しますので、高ランクの冒険者にとってはあまり美味しくはなかったのでしょう。登録後、ある程度経験を積んでから、別の町に行く冒険者が多いですね」
「騎士団に仕事が取られるってこと?」
「というよりは、行動が縛られるということでしょうか。コトハ様やカイト様、ポーラ様もそうですが、戦闘能力がずば抜けている人にとっては、集団での戦闘は難しいことが多いです。自分1人で自由にやった方が楽でしょうから。しかし騎士団が関われば、集団戦闘になり、その指示に従うことが求められます。そのため、動きが固定化されますので、飛び抜けた戦闘能力を発揮しづらくなります。それが嫌なわけですね」
なるほどね。
確かに集団で戦闘している場合には、1人勝手に動き回るのは難しい。場合によっては、邪魔ですらある。大規模な魔法は周りを巻き込みかねないし、遠方から魔法で攻撃しようとしたときに、敵の近くで誰かが大立ち回りを演じていれば、魔法を撃てなくなる。
結局、一騎当千と呼ばれるような高い戦闘能力を有する人は、騎士団が行うような集団戦には向かないことが多い。もちろん、時と場合によって使い分けることのできる器用な人もいるが、自分1人で倒せる相手なのにわざわざ集団と歩調を合わせるのがストレスに感じる人も多いのだろう。
私も、例えばこの前使った『隕石雨嵐』を、下に味方がいる状況で使えるかと言われれば、無理だ。そして、チマチマ攻撃することが億劫に感じるかと言えば、感じるだろう。自分なりの戦い方を編み出している高ランク冒険者にとっては、騎士との共闘というのはかなりストレスを感じるものなのかもしれない。
話を戻す。
「と、すると。ライゼルさんがあれに仕えている理由は、ますます分からなくなるよね。彼も、一騎当千タイプだろうし」
「はい。ライゼルと言えば、登録直後からそのズバ抜けた身体能力と巧みに操る魔法の腕、そして効率の良い戦闘方法などで、多くの依頼を短時間で、それも完璧にこなすことで有名でした。数年前に急に噂を聞かなくなりましたが・・・」
「そのタイミングで仕えたってことかな?」
「おそらくは」
うーん、謎だ。
今日の感じ、ゾンダル子爵に他の事情を無視して仕えたいと思うほどの人望があるようにも思えない。それに、立ち寄った際の彼の屋敷は成金そのものというか、金にがめつい感じ。会った三男も人を見下した感じの嫌な男だった。
「マーカス。ライゼルさんが、なんであいつに仕えているのか調べられる?」
「無論です。直ちに」
そう言うと、部屋の外に待機していた騎士を呼んで指示を出すマーカス。
余所の事情に首を突っ込むのもどうかと思うが、気にはなる。それに、あれほど優秀な人が、あんな奴の下で使い潰されるというのも、どうにも納得がいかない。
マーカスに調査をお願いして、どういう経緯で仕えているのかだけでも調べてみよう。それで、何か分かればその時に考えてみるか。
「では、コトハ殿。その素晴らしいゴーレムや魔法武具を用いて、南方の守護を任せるとしよう」
「了解」
と、再度確認する。
今度は反論のざわめきすら起こらなかった。相変わらず鬱陶しい視線は感じるが、それも、まあ、いい。
先ほどマーカスに、その貴族を特定して、誰なのかを確認するように頼んでおいた。身元が割れれば、どうとでも対策は立てられる。
そして最後に、
「此度の一件は、建国式典前という非公式の場であること、クルセイル大公の寛大な対応によるものであることを皆々、肝に銘じよ。今後、ゾンダルのような振る舞いを許すことはない。よいな!」
ハールさんが宣言し、一斉にひれ伏す貴族たち。
非公式の場ってのは、建国式典も爵位の授与も行われていない段階での謁見なので、厳密にはハールさんは国王ではないし、私や他の貴族も爵位などない。その段階での謁見だから、特別ってことだ。
確かに、あんなの毎回許してたら身分制社会が崩壊する。
これを最後に、謁見は終了した。
私たちは退場する。貴族の間を通り部屋から出る際には、多くの貴族から視線を向けられたが、まあどうでもいい。私とハールさんの関係を見て、私との関係を強めたいと思ったのか、武器やゴーレムを買いたいと思ったのか、文句でも言いたいのか・・・
面会の申し入れでもあれば考えるが、基本的にレーノがブロックする。相手が高位の場合や、私に確認した方がいいと思った場合にのみ、確認しにくる。その判断は難しいので、結構確認が来るが、まあレーノの説明を聞いて興味が無ければ断るだけだから、別に問題ない。
♢ ♢ ♢
謁見の間から出ると、待機していた近衛騎士に案内され、借りている客間に戻った。
一息つき、
「みんなお疲れ様。カイト、ポーラ、どうだった?」
と聞いてみた。
「最初は予想通りだったけど、途中からハラハラしたよ! コトハお姉ちゃんが、あの貴族に喧嘩売るから・・・」
とカイトに愚痴られる。
「いや、どっちかというと、私が喧嘩売られたんだけど・・・」
「確かに騎士ゴーレムの性能に言いがかりは付けられたけど・・・。にしても、あそこまで煽らなくてもよかったんじゃないの?」
「まあね。けど、喧嘩売られたんなら、しっかり買い取っておかないとね。それに、言われっぱなしじゃなめられるでしょ? それは、貴族的には良くないんだろうし」
「それはそうだけど・・・」
カイトは完全には納得していないようだが、特に怒っているわけでもなく、焦ったという程度の話だったので、矛を収めてくれた。
それに対しポーラは、
「コトハ姉ちゃん。ゴーレムと戦った人、結構強かったよね」
と、ライゼルさんに興味があるようだった。
「そうだねー。2回目の攻撃を喰らったときは、正直焦ったよね・・・」
と返すと、カイトも会話に加わってきた。
「動きの速さや重さもそうだけど、『風魔法』で加速したり、魔法をフェイントに使ったり、見てて勉強になったよね」
と感心していた。あれを、勉強と捉えているところがカイトらしいが、勉強になったというのは同感だ。騎士ゴーレムに仕込む命令式の内容を含めて、対人戦をしっかりと、具体的に想定する必要があるのだと実感した。
そういえば、
「やっぱりさ、ライゼルさんみたいな優秀な人が、どうしてあんなのに仕えてるのか気になるよね。マーカス、プラチナランクの冒険者って儲かるよね?」
と、気になってたことを聞いてみた。
「はい、もちろんです。高ランクの依頼を受け、それを達成すれば当然、多額の報酬を獲得できます。また、依頼を受けたのがプラチナランクの冒険者だと知れば、感謝も込めて報酬を増額することも珍しくないです。良い関係を築きたいと考える者も多いですから。騎士に転身する者もいることにはいますが、条件が良かったり、個人的に親しかったりしなければ、基本的にオファーは受けないでしょうね」
マーカスの話によれば、プラチナランクの冒険者が騎士になる場合は、優位な立場にあるのは冒険者側らしい。
「けど、相手は貴族なんでしょ? 断ったりできるもんなの?」
「そうですな・・・。確かに、高ランクといえど平民は平民。貴族とは明確に立場の違いがあります。しかしプラチナランクともなれば、事情が異なります。ゴールドランクやシルバーランクであっても、多くの冒険者にとっては憧れの対象であり、市民にとっては自分たちを守ってくれる英雄です。目に見えて生活を守っているのは、騎士団ではなく冒険者ですからね」
「なるほど・・・」
「その最高位ともなれば当然」
納得だ。
冒険者にとっては、目指すべき先であり憧れの対象。市民にとっては、魔獣・魔物を狩り、盗賊を討伐することで、生活を守ってくれる存在。領民の暮らしを守るのは領主の仕事であるとはいえ、それを目に見えて行うのは、領主の指揮下にある騎士団というよりは、冒険者になるわけだ。
「そうすると、前のバイズ辺境伯領だと違ったの?」
バイズ辺境伯領では、クライスの大森林やその周辺に生息する強力な魔獣・魔物の対策として、騎士団が全面的に投入されていた。
「バイズ辺境伯領では、騎士団と冒険者が協力関係にあるというのが一般の認識だったと思います。ただ、強力な魔獣・魔物が出現した際には、素早く騎士団が総力で対応しますので、高ランクの冒険者にとってはあまり美味しくはなかったのでしょう。登録後、ある程度経験を積んでから、別の町に行く冒険者が多いですね」
「騎士団に仕事が取られるってこと?」
「というよりは、行動が縛られるということでしょうか。コトハ様やカイト様、ポーラ様もそうですが、戦闘能力がずば抜けている人にとっては、集団での戦闘は難しいことが多いです。自分1人で自由にやった方が楽でしょうから。しかし騎士団が関われば、集団戦闘になり、その指示に従うことが求められます。そのため、動きが固定化されますので、飛び抜けた戦闘能力を発揮しづらくなります。それが嫌なわけですね」
なるほどね。
確かに集団で戦闘している場合には、1人勝手に動き回るのは難しい。場合によっては、邪魔ですらある。大規模な魔法は周りを巻き込みかねないし、遠方から魔法で攻撃しようとしたときに、敵の近くで誰かが大立ち回りを演じていれば、魔法を撃てなくなる。
結局、一騎当千と呼ばれるような高い戦闘能力を有する人は、騎士団が行うような集団戦には向かないことが多い。もちろん、時と場合によって使い分けることのできる器用な人もいるが、自分1人で倒せる相手なのにわざわざ集団と歩調を合わせるのがストレスに感じる人も多いのだろう。
私も、例えばこの前使った『隕石雨嵐』を、下に味方がいる状況で使えるかと言われれば、無理だ。そして、チマチマ攻撃することが億劫に感じるかと言えば、感じるだろう。自分なりの戦い方を編み出している高ランク冒険者にとっては、騎士との共闘というのはかなりストレスを感じるものなのかもしれない。
話を戻す。
「と、すると。ライゼルさんがあれに仕えている理由は、ますます分からなくなるよね。彼も、一騎当千タイプだろうし」
「はい。ライゼルと言えば、登録直後からそのズバ抜けた身体能力と巧みに操る魔法の腕、そして効率の良い戦闘方法などで、多くの依頼を短時間で、それも完璧にこなすことで有名でした。数年前に急に噂を聞かなくなりましたが・・・」
「そのタイミングで仕えたってことかな?」
「おそらくは」
うーん、謎だ。
今日の感じ、ゾンダル子爵に他の事情を無視して仕えたいと思うほどの人望があるようにも思えない。それに、立ち寄った際の彼の屋敷は成金そのものというか、金にがめつい感じ。会った三男も人を見下した感じの嫌な男だった。
「マーカス。ライゼルさんが、なんであいつに仕えているのか調べられる?」
「無論です。直ちに」
そう言うと、部屋の外に待機していた騎士を呼んで指示を出すマーカス。
余所の事情に首を突っ込むのもどうかと思うが、気にはなる。それに、あれほど優秀な人が、あんな奴の下で使い潰されるというのも、どうにも納得がいかない。
マーカスに調査をお願いして、どういう経緯で仕えているのかだけでも調べてみよう。それで、何か分かればその時に考えてみるか。
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