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第4章:新たな日々

第166話:砦の運用開始

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「確かに単に文官が少ないというだけなら、私やレーノに直接報告してもらえばいい。けど、それだと私とレーノが全部情報を整理して考えることになるでしょ? それは嫌だし、規模が大きくなれば不可能。それに、例えばどのくらい武具が生産できるかとか食料の準備が出来るかは、騎士団がどのくらい活動できるかと深く関わるでしょ?」
「はい・・・」
「だから、どのみち各部門を単体で考えることはできない。それなら、各部門で働いている人が集まって、意見を出し合えば、それぞれの部門の現状や要望を反映した領の運営ができると思ったのよ」
「・・・それは、理解できます」
「うん。もちろん、これはあくまで、今のうちの領の規模と人員構成だからできること。領民の数が400人くらいだし、ほとんどが騎士とその家族。税も徴収していないし、特に隠す内容も無い。だから、誰でも参加できて意見できる、そんな領内会議を行っているの」
「・・・じゃあ、そのうち止めるんですか?」
「それは分かんないけど、誰でも参加できて意見もできるってのは不可能だろうね。私としては、各部門を代表している人がそのまま取りまとめとして文官っぽい立ち位置になってくれたらいいなと思ってるし、傍聴していた子どもたちの中から文官志望の子が出たらいいなと思ってる」
「なるほど・・・」
「要するに、うちの領が小さくて人手不足だからできるってことだね。まあ、文官が各情報を取りまとめてってよりは、情報を持ち寄って会議する方が、領の運営はしやすいと思うから、領内会議を発展させた会議みたいのは残すかもしれないけどね」

私の説明にフォブスは納得しつつも、疑問が残るといった感じだ。
身分制の下で生まれ育ち、教育を受けてきたフォブスと、前世の知識・価値観が抜けていない私との間で、考えが違うのは仕方がない。もちろん、私も前世の日本の様に、選挙をして・・・なんてことができるとは思っていないし、するつもりもない。

とはいえ、私には基本的な知識はともかく、軍事や農業など各部門の深い内容は分からない。だからそれぞれの部門に担当者をおき、ある程度の人数で集まっていろいろ検討するという方針は続けるつもりだ。もちろん、最終決定権は私にあるし、参加者は考えていくつもりだけど。とりあえず、人が少ない間にいろいろ試しているのだ。

それに、うちの領では反乱のような事態が起こり得ない。これは武力で押さえつけられるからというわけではない。もちろんそれも可能だけど・・・
反乱を起こすとすれば、軍人か困窮した市民だろう。
そもそもが、領民は騎士の家族が多く、自分から移住を希望してきた人たちだ。ここでの生活が合わなければ元いた場所に帰ることができるし、帰った人も実際にいる。食料にしろ日常生活に必要な物品にしろ、必要以上の量が供給されている。お店が無いことや、子どもの将来のことなど、課題も多いが直ぐに不満が溜まるような要素は無いと思う。そのため、市民による反乱は考えにくい。

そして軍人、騎士たちだ。騎士団の戦力の7割以上がゴーレムで賄われている。そしてゴーレムを作ったのは私だ。私が作ったゴーレムは、第一に私の命令に従う。今は、「騎士団と一緒に行動して」と簡単に命じて、騎士団での指示に従わせているが、私が異なる命令を発すれば、それが優先される。そのため、仮に騎士団が反旗を翻しても、その瞬間ゴーレムが騎士団と敵対する。そうなれば、騎士団に勝ち目は無い。

そんなわけで、ある程度は領民を信頼して任せつつ、譲れないラインだけは死守する形で、これからも領主業をやっていくつもりだ。本当の究極の場合は、領主なんてやめてカイトたちと引っ越せばいいし。


 ♢ ♢ ♢


砦を建設する場所は、クルセイル大公領の領都ガーンドラバルの北側、クライスの大森林から出てすぐの所に決まった。
建設場所については、バイズ公爵領のラムスさんとの交渉の結果、ここに決まった。バイズ公爵領とクルセイル大公領の境界はクライスの大森林だと決まっていたが、厳密に線引きがしてあったわけではない。そのため、完成した砦の使いやすさを考え、森の中ではなく森の外へ出たところに決めた。

今回建設する砦は、長方形型。東西に200メートル、南北に100メートルほどの大きさだ。出入り口は南北の2箇所。緊急時の避難用通路はいくつか設置するが、これは外部からは見えないようにする予定だ。その他、騎士団用の設備や厩舎を設置するし、できれば何らかの商店のようなものを設置できたらいいと思っている。まあこれは、お店を出してくれる人がいればだが・・・。それから来客の対応をする建物や簡単な宿・・・というか寝る場所を設置する。


建設場所が決まった翌日から作業を開始した。
砦の壁は、私とポーラが全力で作るので、簡単に終わる。内部に建てる建物も、これまで領都に多くの建物を建ててきたうちの騎士団たちにとっては慣れたものだ。

構造自体が簡単なこともあって、着手から1週間で、砦は完成した。マーカスら騎士団に言わせると、このスピードで砦が作られるのは軍事的にはかなりの脅威らしい。まあ、最前線に一瞬で砦を作られたらたまったもんじゃないよね・・・。特に砦を覆う壁自体は、1日で作ってるし。


砦が完成すると、事前の計画通りに騎士団が砦に入り、砦の運用の準備が開始された。最初は2個中隊が砦に駐留する。
どのくらいの来客があるか分からないが、最初は不測の事態に備える意味も込めての配備だ。それに、ラムスさんとの交渉で砦周辺の魔獣対応も担うことになったし、冒険者の補給も認める予定だ。そのためある程度の戦力が必要になる。

砦に騎士団を配備し、いつもの通りに任務を行うとなると、当然のことだが騎士ゴーレムも一緒に任務に就くことになる。これについてはいろいろ検討したが、いずれ知られることになるし、隠す気も無いので特に意識せず、普通に配備することになった。砦周辺の巡回にでるのもこれまで通り騎士隊や小隊単位だし、門番役にも騎士ゴーレムがいる。

そればかりか、この機会に魔法武具やゴーレム、『アマジュの実』以外の木の実類もお披露目することにした。私の微かな製法の記憶と味の記憶を頼りにレーベルが開発した、森の恵みをふんだんに用いたスイーツやファングラヴィットのお肉を『シェン』を使ってピリ辛に味付けした料理など、おそらくここ以外では食べられないものを提供してみる。まあ、相手は選ぶけどね。しばらくはレーノが砦に滞在し、その辺の差配をする予定だ。

他にも軍馬を数頭連れてきているし、スレイドホースで私の従魔のポスを連れてきている。スレイドホースたちは交代で砦に行き、緊急時には領都に情報を伝えるために走ることになる。


 ♢ ♢ ♢


砦を建設して1週間、アーロンが状況報告のために戻ってきた。
アーロンはジョナスと共に、騎士団の副団長に就任している。騎士団長のマーカスと3人で、騎士団を管理している。
具体的には、第1中隊である警護隊は騎士団長マーカスの直属、第2中隊である領都の警備隊は副団長のジョナスが、第3から第6中隊は副団長のアーロンが管理している。アーロンは第3中隊の中隊長も兼ねている。

「お疲れ様、アーロン」
「ありがとうございます、コトハ様。事前の計画通り、砦の運用状況の報告に参りました」
「うん、お願い」

私とレーベル、カイトたちに文官たち、マーカスを前にアーロンが報告を開始した。

「砦の運用は、概ね計画通り進んでおります。砦の警備、来客の対応、周辺の巡回なども予定通りです」

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