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第4章:新たな日々

第145話:迷惑な国

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ドランドと一通り盛り上がった翌日、早速ゴーレムの身体の試作に入ろうと素材の保管庫に向かっていたのだが、それは一時中断となった。
バイズ公爵領の領都ガッドから、スレイドホースのウォロンに乗ったフェイが帰ってきたのだ。

「おかえり、フェイ。1人?」
「ご無沙汰しております、コトハ様。本日は、カイト様よりコトハ様宛に書状を預かって参りました」
「書状・・・、手紙?」


そう言ってフェイから、カイトからだという手紙を受け取った。
その内容は、簡単に言えばガッドへ来てほしいというものだった。

というのも、バイズ公爵でカーラルド王国宰相のアーマスさんの、新国家に関する作業が一段落し半年後に建国関連の式典を王都で行うことが決まったらしい。一応カーラルド王国の貴族である私もそれに参加することになるのだが、それに向けた事前準備として、一度私と話がしたいとのことだった。

加えて、ドランドたちを奴隷として売り飛ばそうとしていた奴隷商人に関する話や、ダーバルド帝国の話、カイトが向こうで戦った奴隷狩りに関する話など、相談したいことがあるらしい。
正直私に関わる義務は無いのだが、この点はカイトからどうしても私にも聞いてほしいとのお願いが書かれていた。


 ♢ ♢ ♢


フェイが手紙を持って来てから数日、私はアーマスさんのお屋敷にいた。
今回は話をするだけだから、早いところ済ませようと思ったのだ。それにアーマスさんがいつまでガッドにいられるのかも分からないしね。
・・・・・・本音は、早くガーンドラバルへ帰ってゴーレムの研究をしたい。

カイトとポーラと約半年ぶりの再会を果たし、ラムスさんやミシェルさんに2人を預かってもらったことへの礼を述べた。

その日は、カイトとポーラからここ半年間の2人の話をたくさん聞いた。ポーラはもちろん、カイトも嬉しそうに冒険者としての活動の話や座学で学んだことを話してくれた。久しぶりに一緒の時間を過ごせてとても幸せだった。
領主になって仲間は増えたけど、私の「家族」はこの2人だと改めて強く思えた時間だった。

それからカイトには、キアラさんというエルフの女性を紹介してもらった。何でもカイトが盗賊から助けた女性らしく、年齢も近いことからフォブス君と3人で冒険者として活動しているらしい。




翌朝、朝食を終えると、私はアーマスさんとラムスさんと一緒に、領主の執務部屋にいた。いつもの応接室じゃないことが少し驚きだったが、毎回格式の高そうな応接室に通されるのも少し居心地が悪かったし、むしろ良かったかもしれない。

「さて、コトハ殿。話したいことは山ほどあるのだが・・・・・・」


そう言うと、ラムスさんを中心に、カイトとポーラがこっちにいた間に起こった事件の概略や顛末を説明してくれた。この辺の話は、昨日ポーラがはしゃいで寝てしまった後にカイトから大体聞いていた。
盗賊にしろ、奴隷狩りにしろ、腹は立つが既に壊滅しているようだし、私が今更何か口を挟む類の問題ではない。
・・・・・・ただ、

「ダーバルド帝国はなんとかならないもんなのかなぁー。正直、百害あって一利なしだよね・・・」
「・・・それは、そうなんですがね」

ラムスさんが困ったようにそう答えてくれた。
思わず呟いてしまったが、これは失言というか、言っても仕方のないことだった。
なんとかできたら、とっくにやってるよね・・・


この世界の国家は基本的に、隣国やその周辺の国家とは交流があるが、それよりも遠い国とは交流が無い。というか、カーラルド王国から見て南西に位置する国家群については、国名すら定かではない国もあるらしい。

そのため、いわゆる国際社会なんてものは観念されず、外交は付き合いのある国や有名な大国との関係のみを念頭において行われる。そのため大国が暴走した場合に、それを国際社会が団結して止めることなどできない。
・・・いや、前世でも大国の暴走を抑えられていたかと言われると疑問だけど。

そして今話題のダーバルド帝国は、いわゆる大国だ。大陸の中央に位置し、広大な国土と多くの国民を抱え、強力な軍隊を保有している。そんなダーバルド帝国の唯一の弱点が、海に面していないこと。完全な内陸国なのだ。

この世界の物流の中心は、馬やスレイドホースに引かせた馬車だ。国家間の貿易でも、国公認の商人が、国境を越えて商品を流通させる。
しかし、その例外として海運がある。沖合へ出れば強力な魔獣や魔物が生息している海でも、ある程度陸地に近いところを移動すれば、襲ってはこない。また、魔獣や魔物があまり生息していない海域もある。それらを利用して、カーラルド王国は東の大陸にある3つの国と貿易をしているし、大陸の南側では多くの船が行き来しているらしい。

そんなわけで、大陸の中心に位置し、海運にも参入することで国力を高めようとしているダーバルド帝国は海に至るべく、南北に領土を広げていた。しかしダーバルド帝国の南側にはディルディリス王国がある。『魔族』が多く住み、王家も『魔族』だというディルディリス王国は、ダーバルド帝国と同じく大国だ。兵の多くが『魔族』や『人間』以外の種族であり、兵士個々の戦闘力が極めて高い。

一方で北側にあるのは『人間』が中心のジャームル王国だ。一応ダーバルド帝国の東側にはカーラルド王国もある。しかし、ダーバルド帝国とカーラルド王国の境界には、中心のクリオラル山を筆頭に大小複数の山々が連なる広大な山脈地帯を形成しており、大規模な軍事行動はまず不可能だと言われている。

結局、ダーバルド帝国が海に至るには、北側に隣接するジャームル王国を滅ぼすしかないのだ。


「状況の把握に間諜を多く放っているが、ジャームル王国とダーバルド帝国の小競り合いは、日に日にエスカレートしていると聞いている。国境沿いには両国の軍がそれぞれ集結しており、小さな町や村の取り合いをしながら、国境線が日々動いている感じだな」
「・・・・・・全面戦争になるのも時間の問題ってこと?」
「いや、そうとも言えん。というのも、両国の国境線上には、大規模に軍を展開して正面から殴り合えるような平地が無いのだ」
「つまり、ダーバルド帝国の強みが発揮しにくいということですね」
「うむ。ダーバルド帝国の強みは、数の暴力と戦闘能力の高い戦闘奴隷を使った大規模な攻勢だ。つまり横に広がって敵を押しつぶす戦法が使えない状況下では、補給さえ問題なければ対処できるわけだな。どうやらダーバルド帝国は、少数に分かれて町や村を攻め、そこを足がかりにしようと試みては、ジャームル王国に奪還されるのを繰り返しているらしい。それなりに兵も奴隷も死んでおるようだから、ダーバルド帝国の方がじり貧だな。ジャームル王国の農業生産量は多いし、海の幸もある。我々が苦しめられた魔道具を作る技術もあるから、補給は問題ないのだろう」
「となると・・・・・・、第三の道、ですか?」
「ああ。それが、コトハ殿を呼んだ理由の1つだ」
「第三の道?」


アーマスさんとラムスさんが頷き合いながら私を見るが、なんのことか分からない。
疑問に思いながら2人を見返していると、

「ダーバルド帝国が北進を諦め、東進する可能性がある。それも、クライスの大森林を抜けてな」
「なっ!」

第三の道ってそういうことか。南がダメで、北もダメ。次は東ってわけね。でも、素直に東に進むならクリオラル山、というかまとめてクリオラル山脈を通るルートも可能性としてはあるのだから、第四の道な気もするけど・・・
いや、んなことはどうでもいいか。


「ダーバルド帝国がクライスの大森林を抜けて、カーラルド王国を攻める、若しくはそのまま東の端に至ることを目指す可能性は高いと考えておる。奴隷もいるし、個々人の兵の強さも我が国よりは上だ。それに懐かしい魔道具に似た、いや性能はそれ以上らしいが、魔道具もある。魔獣を遠ざけたり、強力な兵器として使える魔道具も多数あるらしい」

そういえば、ドランドがそんな話をしていた。
ダーバルド帝国に捕らわれている奴隷のうち、『魔族』や『ドワーフ』など、魔法に長け、かつ、物作りに精通している人たちが、兵器の開発をさせられているらしい。ドランドは、鍛冶はできたが、魔法についてはあまりだったのでそこには混ぜられなかったらしいが、知り合いの鍛冶職人が、兵器を作らされていたらしい。
現に森で捕らえた奴隷商人は、魔獣を寄せ付けない魔道具を所持していた。

クライスの大森林は危険な森だと言われているが、ある程度の強さを持つ者が、適切な装備と戦術を用いれば、問題なく活動できることは、うちの騎士団が証明している。
となると、ダーバルド帝国が森を抜けてくるかもしれないとのアーマスさんたちの予測は、突飛な話でもなんでもなく、十分に想定できる話であった。

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