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第2章:異世界の人々との出会い

閑話:約束を守るべく

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~バイズ辺境伯視点~

自領に戻り、直ちに行動を開始した。
遠征の失敗はすでに揺るがず、指示しておいた通りに息子が陣地の撤退準備をしていた。
森に入った遠征軍のうち、私が森に入っていた間に帰還したのは、たったの3名だけだった。
私と一緒に森へ入った者で帰還したものは、コトハ殿に助けられた私たち4名を除いていなかった。もちろんマノスも帰らなかった。

ロップス殿下の救出を命じにきた、ランダル公爵はすでに王都へと帰還しており助かった。
正直、邪魔なだけだ。
私は彼の無謀な命令により、25名の部下を失った。

・・・・・・だが、森に入ったことで、コトハ殿と面識を持つことができたことを考えると、彼には感謝する面もある。


陣地の撤収作業は基本的に息子たちに任せ、私は王都へと向かう準備をする。
とにかく急いで、ロップス殿下の死亡を確認したことを、国王陛下にお伝えせねばならない。
本来貴族が王都へ行くには、見栄や社交のためにも、多くの準備をし、それなりの数の部下を連れていくものである。
しかし今回は、時間との戦いである。
2週間程したらコトハ殿が領都へ来る。それまでに、此度の遠征の後始末の見通しを立てねばならない。


加えて私には、必ず守らねばならない約束がある。
それは、カイト殿とポーラ殿の家族、マーシャグ子爵家の汚名をそそぐことである。
そのための策はいろいろと考えてはみたが、少し難しい。
なんの繋がりもなしに、3年ほど前の事件を蒸し返して、貴族を糾弾するなどできないからだ。

少し時間はかかるが、先にレンロー侯爵やその一派の勢力を完全に削ぎ、種々の疑惑や失敗を追求した上で、過去の過ちを正していくのが、最善だろう。
そのためにも、できるだけ早く此度の遠征の失敗を国王陛下に説明し、レンロー侯爵一派の責任を追求する流れを作らねばならない。
コトハ殿には、説明せねばならないが、彼女はきちんと説明すれば、理解し時間がかかることも了承してくれるであろう。

彼女は物理的に強いし、国や領を滅ぼすとの言葉は脅しでもなんでもなく、本心であろう。
だが、とても理性的で合理的な人物だった。
自分たちの利益を1番に考えてはいるが、無茶を強いるタイプでも見栄を張るタイプでもない。
なので、きちんと説明すれば、理解してもらえる。
そこが、貴族なんかと違い、積極的に付き合っていきたいと考えた理由である。


 ♢ ♢ ♢


王都へ着くと、直ちに国王陛下にお目通りが叶った。
まあ、ロップス殿下についてと遠征についてであると、理由は伝えてあるから驚きはない。


謁見の間に入ると、険しい表情の国王陛下と宰相のランダル公爵、財務卿のカーラ侯爵が待っていた。

「バイズ辺境伯。限られた者以外は排除しておる故、率直に事実を説明せよ」

挨拶もそこそこに、国王陛下がおっしゃった。

「はっ! まず、ロップス殿下についてですが・・・・・・、誠に残念ながら、お亡くなりになりました。御遺体を発見することは叶いませんでしたが、殿下の身につけられておられた、鎧や剣を回収しております」

国王陛下も、私が殿下と一緒に来なかったことから察していたであろうが、その言葉を言われ、沈痛な面持ちをしている。

「バイズ辺境伯。此度の遠征が失敗に終わったことは理解しておるし、その詳細も後に説明をしてもらうつもりである。だがまず、息子のことを説明してくれ・・・」
「・・・・・・はい。ロップス殿下はレンロー侯爵と共に、クライスの大森林から帝国に向けた貿易路を開拓するべく、西側に向かわれました。ですが、他の部隊と同様、定時連絡の予定を大きく過ぎても連絡がなく、捜索に向かいましたところ、先にお渡し致しました、殿下の武具が、他の騎士の武具や死体とともに発見されました。武具には大量の血や肉片が付着しており、状況的にそれらは・・・・・・」

殿下のものである、その言葉を言うことはできなかった。
だが、言わずとも伝わったであろう。

本当はもう少し説明したいところだが、これ以上はできない。
コトハ殿のことを話さずに説明できるのはここまでだ。
私は例え国王陛下の命令であろうと、コトハ殿との約束を違うつもりはない。


「・・・・・・そうか。ロップスは、魔獣に、食われたのか・・・」

そう、独り言にも問いかけにも聞こえるように、陛下がおっしゃった。
私は無言で、陛下の目を見つめることしかできなかった。
今回の遠征は、終始愚かなものであったとは思うが、それとは別に、私も親として、自分の息子の最後を想像して、やりきれない思いをしている陛下の気持ちが理解できた。




陛下は一度、目を閉じて深く息を吐いた。

「感謝する、バイズ辺境伯。王として父として、ロップスの生死を確認し、遺品を持ち帰ってくれたことをな・・・・・・」
「もったいなき、お言葉に、ございます」
「・・・では、遠征全体の説明を頼めるか」

私は、国王陛下に此度の遠征の顛末を詳しく説明した。
魔除けの魔道具が、全く期待外れであったこと。
森に入った、約4000名の騎士や兵士のほとんどが死亡したこと。
これらは、誇張でもなんでもない。

そして、クライスの大森林には、二度と手を出すべきでないこと。

これを伝えると、それまで黙っていた宰相のランダル公爵が、口を挟んだ。

「バイズ辺境伯。魔除けの魔道具が効果を発揮せなんだことは理解したが、クライスの大森林に眠る資源、貿易路を開拓できたときに得られる利益を考慮してもなお、手を出すべきではないと? 今回よりも多い軍勢で、魔獣どもを片っ端から始末することはできぬのか?」

・・・・・・は?
このアホは何を言っているんだ。
そんなことができたら、あんな信用のおけない道具に頼らずに、最初からそうしておったわ!
そもそもそんな軍勢どこにおるのだ!

「そう思うのであれば、ランダル公爵自ら、軍勢を率いられるがよい。数分で、いかに愚かな行為か、実感できるであろう」

つい、陛下の前であることも忘れて、非難してしまった。
しかし、

「止めぬか! バイズ辺境伯の説明を聞いて、此度の遠征がいかに無謀で浅はかであったか理解したであろう!」

そう、陛下がランダル公爵を怒鳴りつけた。
陛下が声を荒げるのは初めてみた光景であった。

ランダル公爵は詫びると、後ろに下がった。
ロップス殿下、レンロー侯爵が死んだ今、こいつがこの国の膿筆頭だな。




国王陛下への此度の遠征に関する報告は完了した。
事あるごとに、レンロー侯爵の一派に責任があることを匂わせた。
普段は、王都での貴族間の権力争いには辺境伯という特性上参加することがないため、貴族的な言動で、他人を非難するのには苦労した。


最後に陛下が、

「バイズ辺境伯よ。他に何か言うことはあるか?」

そう聞かれたので、

「はい。陛下にお願いしたい事がございます」
「うむ。申してみよ」
「ありがとうございます。此度の遠征では、遠征の拠点を形成するため、多くの冒険者に依頼を出し、魔獣を討伐。自領や近隣の領から多くの物資を買い取って、陣地や軍に供給し続けました。それらに要した金額は、此度の遠征に関して、国から支給された額を大きく上回っております。その補填をお願いしたいのです」
「・・・・・・うむ。言っておることは分かる。だが、それを十分に補填できる費用は、国庫には・・・・・・」

そう言って陛下は、財務卿のカーラ侯爵を見た。

「はい。国庫に費用は残っておりません」
「陛下、それは承知しております。そこで、許可をいただきたいことがあるのです」
「・・・なんだ?」
「此度の遠征は、レンロー侯爵が検証の不十分な魔除けの魔道具の効果を誇張してロップス殿下に紹介し、焚き付けたものであります。その責任を取らせ、レンロー侯爵家並びにそれに連なる貴族家から、費用の補填を受ける許可をいただきたく存じます」
「・・・・・・うむ。そうであるな。・・・・・・・・・・・・よいであろう。許可する。我が名において、必要な費用を、レンロー侯爵家らから徴収するがよい」
「はっ! ありがとうございます」




これで必要な布石は打てた。
後は、できる限り金をむしり取り、レンロー侯爵家やその一派の力を削いでいこう。
まあ、実際に費用がかかっておるしな・・・

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