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第1章:異世界の森で生活開始
閑話:事件の裏で
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私が同僚から、あの報告を聞いたのは、2年ほど前になります。
♢ ♢ ♢
「レイルさん! 大変です!」
「どうしたのですか、キエラ。そんなに慌てて」
「王都からやってきた旅商人に聞いたのですが、マーシャグ子爵家が取り潰しになったと!」
「・・・キエラ、そんな馬鹿げた話を信じたのですか? 常日頃から、噂や欺瞞工作を見抜けるようにとあれほど・・・」
「ですが! 他にも何名かの商人に聞いてみましたが、同じことを。料金を支払っての情報ですから、ある程度の信憑性はありますし・・・」
「・・・・・・・・・いや、そんなわけが。マーシャグ子爵家は不正や犯罪とは無縁の存在、当主のラザル様も公明正大を体現したような誠実なお方ですし・・・。取り潰される理由など。・・・
ひとまず、その情報の真偽を確かめましょう。仮に真実であれば、我々は危険な立場に置かれることになりますので、身分は決して明かさぬように。周辺の町を巡って、商人や冒険者から話を聞いてみることとしましょう。合流は2週間後の昼時。場所はここで」
「了解しました」
そうして、2週間、情報を集めて回り、キエラと合流してその確認をしたところ、ほぼ確実に、マーシャグ子爵家が取り潰されたことが分かりました。
この日、20年間お仕えしてきた“主”を失ったのです。
♢ ♢ ♢
私は、マーシャグ子爵家の調査官として働いていました。
マーシャグ子爵家は、代々王国の財務を管理する地位に就いていました。領地は持ちませんが、財務監督官という、重要な職を担ってきました。
財務監督官の大きな仕事は、各貴族が毎年、領民から集め、一定割合を納める税が、正しく納められているかを監督することです。貴族の中には、「不作であった」や、「不漁であった」などの理由で納めるべき税を誤魔化そうとするものがいます。それに対して、帳簿等を調べ、正しい額の税を納めさせます。
また帳簿自体を偽造していることもあるので、私のような調査官と呼ばれる、マーシャグ子爵家の手の者が、実際に領地に赴き、調査を行います。
さらに、納められた税金が適切に管理され、出入りしているかの監視もしています。
私が今回の件を聞いたのも、そんな調査に出ている最中でした。
マーシャグ子爵家は横領の罪により、取り潰し。それに深く関わっていた、当主とその妻、当主の嫡男が死罪。当主の次男と長女は、身分剥奪のうえ、辺境の村送りとなりました。
ですが、やはり納得できないのです。
これまで多くの不正を告発してきた、マーシャグ子爵家の中でも歴代トップクラスに誠実であると言われていた、あのラザル様がそのようなことを・・・
そう思った私は、この件の調査を行いました。
その結果分かったのは、マーシャグ子爵家が嵌められたことでした。
マーシャグ子爵家を嵌めたのは、レンロー侯爵とその派閥の者達、そしてラシアール王国の第二王子でした。
詳細までは分かりませんでしたが、マーシャグ子爵家が、レンロー侯爵の不正を告発する準備をしていたところ、それを封じようとしたのだということが分かりました。
そして、ラシアール王国の第二王子は、有名なバカ王子で、王家の金で贅沢三昧をし、国家の運営に使う予算に手を付けようとしたので、マーシャグ子爵と揉めたとの噂がありました。
おそらく手を組んで、邪魔なマーシャグ子爵家を潰すことにしたのでしょう。
ここまで敵が大きいと、私1人では、どうしようもありません。
マーシャグ子爵家の取り潰し以来、調査官としてともに頑張ってきた同僚達も、相次いで別の仕事に移り、また国を出たりしています。
ですが、私とキエラの2人は、マーシャグ子爵家、特にラザル様へ、与えられた御恩を返しきれていませんでした。
冒険者として失敗し、多額の借金を背負った我々を救って下さった、御恩を。
なので、残された、ラザル様のご子息ご息女のお二人を、陰ながら守りたい、そう思いました。
ですが、私たちが、お二人の居場所を突き止め、カナン村に向かったときには、お二人は亡くなっていました。
村人が言うには、流行病だそうです。
しかしながら、村に、流行病の恐怖が襲った様子はありません。
・・・・・・なんとなくですが、事情を察しました。
村のある領の官吏に通報したところで意味は無いでしょう。下手をすれば、グルです。
私たち2人は、目的を失い、バイズ辺境伯領の領都で、しばらくの間、久しぶりの冒険者業をしながら、今後のことを考えることにしました。
♢ ♢ ♢
バイズ辺境伯領は、人型種や、多くの魔獣・魔物にとって、死地と同義であるクライスの大森林と接する、ラシアール王国で最も危険な場所です。
森の近くや、森の浅いところにも、多くの魔獣・魔物が生息しています。
冒険者は、討伐依頼をこなしたり、素材を求めて出される収集依頼をこなしたりして、報酬を受け取ります。依頼にある素材以外は、売れば自分の財産となります。
そのため、冒険者にとって、バイズ辺境伯領は、絶好の仕事場なのです。
私とキエラは、久しぶりの冒険者業で、少し鈍っているところもありましたが、概ね問題なく活動できています。
というのも、調査官の仕事では、時折、領地を調べられると困る貴族が、殺し屋を派遣してくることがあったので、鍛錬は怠っていませんでしたから。
ただ、魔獣や魔物と戦うのは久しぶりでした。
バイズ辺境伯領周辺に生息する魔獣や魔物は基本的に、どれも強いです。
とはいえ、相手が1体なら、私とキエラの2人で問題なく倒すことができます。
まあ、一度、獲物でも追っていたのか、ファングラヴィットが森から出てきたときは、死を覚悟しましたが。
あれは、私たちに倒せるものではありません。
幸い、私たちに目もくれず、すぐに森へ戻ったので助かりましたが、あのまま向かって来られていたらと思うと身震いします。
そんなある日、森で迷って出てきたファングラヴィットが、カナン村を滅ぼしたと聞いたときは、なんとも言えないような、そんな気持ちになりました・・・
♢ ♢ ♢
「レイルさん! 大変です!」
「どうしたのですか、キエラ。そんなに慌てて」
「王都からやってきた旅商人に聞いたのですが、マーシャグ子爵家が取り潰しになったと!」
「・・・キエラ、そんな馬鹿げた話を信じたのですか? 常日頃から、噂や欺瞞工作を見抜けるようにとあれほど・・・」
「ですが! 他にも何名かの商人に聞いてみましたが、同じことを。料金を支払っての情報ですから、ある程度の信憑性はありますし・・・」
「・・・・・・・・・いや、そんなわけが。マーシャグ子爵家は不正や犯罪とは無縁の存在、当主のラザル様も公明正大を体現したような誠実なお方ですし・・・。取り潰される理由など。・・・
ひとまず、その情報の真偽を確かめましょう。仮に真実であれば、我々は危険な立場に置かれることになりますので、身分は決して明かさぬように。周辺の町を巡って、商人や冒険者から話を聞いてみることとしましょう。合流は2週間後の昼時。場所はここで」
「了解しました」
そうして、2週間、情報を集めて回り、キエラと合流してその確認をしたところ、ほぼ確実に、マーシャグ子爵家が取り潰されたことが分かりました。
この日、20年間お仕えしてきた“主”を失ったのです。
♢ ♢ ♢
私は、マーシャグ子爵家の調査官として働いていました。
マーシャグ子爵家は、代々王国の財務を管理する地位に就いていました。領地は持ちませんが、財務監督官という、重要な職を担ってきました。
財務監督官の大きな仕事は、各貴族が毎年、領民から集め、一定割合を納める税が、正しく納められているかを監督することです。貴族の中には、「不作であった」や、「不漁であった」などの理由で納めるべき税を誤魔化そうとするものがいます。それに対して、帳簿等を調べ、正しい額の税を納めさせます。
また帳簿自体を偽造していることもあるので、私のような調査官と呼ばれる、マーシャグ子爵家の手の者が、実際に領地に赴き、調査を行います。
さらに、納められた税金が適切に管理され、出入りしているかの監視もしています。
私が今回の件を聞いたのも、そんな調査に出ている最中でした。
マーシャグ子爵家は横領の罪により、取り潰し。それに深く関わっていた、当主とその妻、当主の嫡男が死罪。当主の次男と長女は、身分剥奪のうえ、辺境の村送りとなりました。
ですが、やはり納得できないのです。
これまで多くの不正を告発してきた、マーシャグ子爵家の中でも歴代トップクラスに誠実であると言われていた、あのラザル様がそのようなことを・・・
そう思った私は、この件の調査を行いました。
その結果分かったのは、マーシャグ子爵家が嵌められたことでした。
マーシャグ子爵家を嵌めたのは、レンロー侯爵とその派閥の者達、そしてラシアール王国の第二王子でした。
詳細までは分かりませんでしたが、マーシャグ子爵家が、レンロー侯爵の不正を告発する準備をしていたところ、それを封じようとしたのだということが分かりました。
そして、ラシアール王国の第二王子は、有名なバカ王子で、王家の金で贅沢三昧をし、国家の運営に使う予算に手を付けようとしたので、マーシャグ子爵と揉めたとの噂がありました。
おそらく手を組んで、邪魔なマーシャグ子爵家を潰すことにしたのでしょう。
ここまで敵が大きいと、私1人では、どうしようもありません。
マーシャグ子爵家の取り潰し以来、調査官としてともに頑張ってきた同僚達も、相次いで別の仕事に移り、また国を出たりしています。
ですが、私とキエラの2人は、マーシャグ子爵家、特にラザル様へ、与えられた御恩を返しきれていませんでした。
冒険者として失敗し、多額の借金を背負った我々を救って下さった、御恩を。
なので、残された、ラザル様のご子息ご息女のお二人を、陰ながら守りたい、そう思いました。
ですが、私たちが、お二人の居場所を突き止め、カナン村に向かったときには、お二人は亡くなっていました。
村人が言うには、流行病だそうです。
しかしながら、村に、流行病の恐怖が襲った様子はありません。
・・・・・・なんとなくですが、事情を察しました。
村のある領の官吏に通報したところで意味は無いでしょう。下手をすれば、グルです。
私たち2人は、目的を失い、バイズ辺境伯領の領都で、しばらくの間、久しぶりの冒険者業をしながら、今後のことを考えることにしました。
♢ ♢ ♢
バイズ辺境伯領は、人型種や、多くの魔獣・魔物にとって、死地と同義であるクライスの大森林と接する、ラシアール王国で最も危険な場所です。
森の近くや、森の浅いところにも、多くの魔獣・魔物が生息しています。
冒険者は、討伐依頼をこなしたり、素材を求めて出される収集依頼をこなしたりして、報酬を受け取ります。依頼にある素材以外は、売れば自分の財産となります。
そのため、冒険者にとって、バイズ辺境伯領は、絶好の仕事場なのです。
私とキエラは、久しぶりの冒険者業で、少し鈍っているところもありましたが、概ね問題なく活動できています。
というのも、調査官の仕事では、時折、領地を調べられると困る貴族が、殺し屋を派遣してくることがあったので、鍛錬は怠っていませんでしたから。
ただ、魔獣や魔物と戦うのは久しぶりでした。
バイズ辺境伯領周辺に生息する魔獣や魔物は基本的に、どれも強いです。
とはいえ、相手が1体なら、私とキエラの2人で問題なく倒すことができます。
まあ、一度、獲物でも追っていたのか、ファングラヴィットが森から出てきたときは、死を覚悟しましたが。
あれは、私たちに倒せるものではありません。
幸い、私たちに目もくれず、すぐに森へ戻ったので助かりましたが、あのまま向かって来られていたらと思うと身震いします。
そんなある日、森で迷って出てきたファングラヴィットが、カナン村を滅ぼしたと聞いたときは、なんとも言えないような、そんな気持ちになりました・・・
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