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第十五章 初めてのわかれ

2 ふたりの距離

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 部屋に入ると、見るものすべてが目新しく、何をしに入ったのかも忘れていた。あちこち散策し、ソファーに座って、
「どうしたの?あんなに嫌がっていたのに…。」と真斗が訊いてきた。
「さっきも言ったけど、私の五感を試してみようと思って誘ってみた。真斗の好きなようにしてみてよ。私も頭で考えないでしてみるから。私、汗かいたから、シャワーを浴びるね。」と言ってバスルームに入った。真斗が後から付いて来ると思っていたが、ソファーでテレビを見ていた。私がバスタオルを巻いて出て来ると、入れ替わりに真斗がバスルームに向かった。
 ベッドに入って天井を見ると、ブラックライトで照らし出された星空がきれいだった。私はボーっと考え事をしながら真斗を待っていると、真斗が私の横にすべり込んできた。そしてキスもせずに、真斗は乱暴に私を扱った。
「嫌だ、真斗。やっぱりこういうのは無理だよ。身体は感じていても、心がともわないから、ちっとも嬉しくない。私がしたいのと真斗がしたいのとは違う。」真斗は私の身体から離れ、そのまま仰向あおむけになった。
私は真斗に向かって、
「天井を見て!沖縄で真斗と見た星空を思い出す。あの頃はまだ、真斗と一緒にいるだけで楽しかった。そばに真斗がいるだけで良かった。」と言った。
「分かったよ。愛海の気持ちを考えられなくてごめん。自分勝手に、愛海も俺を求めていると思っていた。それが恋愛だと思っていた。茜にも怒られて、自分が変わったのにも気が付いた。俺とは反対に、愛海は心が1番、身体は2番と考えている。いつからか俺は、身体を1番にしていたのを、今気が付いた。愛海を裏切るような行為もしていた。ごめん。」

 恋に恋している女の子と違い、男の子は現実を追い求めている。だから、心を優先するか、身体を優先するかのすれ違いになる。いずれも同じ所に行きつくのだろうけれど、その過程を私は大事にしたい。真斗とはもう行きつけない気がする。
「いいよ。真斗の気持は、私を抱くことが愛情だと思っていたんだよね。真斗が私の気持を少しでも分かってくれたなら、1度していいよ。約束だから。」私は真斗の胸に顔を埋めた。真斗は私の頭をでながら、唇を重ねてきた。

「ねえ、愛海。俺達これで最後なの?」真斗は未練がましく訊いてきた。
「女子に二言はない。私は、一度決めた事は実行に移すタイプなんだ。いろいろ教えてくれて、大人にしてくれてありがとう。でも、私は少女に戻るよ。やっぱり心で感じる恋をして、身体がそれに伴うような恋愛をしたい。」
 私の心変わりは、真斗が変わった事に関係していた。今日の真斗は、好きだった時の彼に戻っていたが、心を取り戻す事は、私にはできなかった。それができたのは、茜でしかないと私はその時思った。
「真斗が今考えているのは、茜のことだよね。」真斗は黙っていたが、私は彼の顔色を見て確信した。
「茜は真斗のことを本当に心配して、待っているよ。帰ってあげなよ。」
「愛海は強くなったね。それに大人っぽくなったよ。俺だけ子供扱いだな。愛海とこういう関係にあることを、茜は知っているはずだから今さら無理だよ。」真斗の情けない言葉に、私は語っていた。
「茜は、そんなことを気にするような子じゃないよ。真斗を私と付き合わせたのも、真斗のことを思っての事だと思う。茜の心にはいつも真斗がいて、自分の心をしばっていた真斗から脱け出そうとして、別の人と付き合った。それは失敗してしまったけど、真斗を応援していたんだよ。だから、私とこういう関係になった事も納得していた。でも、真斗が良くない方に行っててしまって、茜はショックだったと思うよ。茜は真斗を思って、立ち直らせようと必死だったのが、私にも分かった。だから、茜は真斗のことが前から好きで、私との事は修行に出したくらいにしか思っていないよ。」真斗は私の言葉が胸に刺さったらしく、居たたまれない様子が見て取れた。

 3時間の休憩はあっという間に過ぎて、ホテルを出るとすっかり日が陰っていた。通りには人が増えていて、私達は距離を取って駅まで向かった。
「真斗、今日までありがとう!勉強しなきゃ、だよね。残りの高校生活を楽しもう。」
「愛海、楽しかったよ。じゃあね!」私と真斗は駅前で別れ、別々の電車で帰った。
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