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第10章 梅枝七海(20歳)=大田黒駿(22歳)

§1羽目を外した罰

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 梅枝七海はクリスマスの日、大田黒おおたぐろ駿しゅんの成城の自宅を訪れていた。彼の司法試験予備試験の合格祝いと、クリスマスを兼ねたパーティだった。七海は知り合いも友人もいない場で気が乗らずに断っていたが、立松千宙の件で生じたうっぷんを晴らすために招待を受けた。ロングドレスを身にまとい、背中まで伸びた髪をバレッタで留め、白のパンプスという装いで列席していた。
「合格おめでとうございます。それと、今日はお招きいただき…。」
「ようこそ!そんな堅苦しい挨拶は良いから、気楽な集まりだから楽しんで!」と言われて周りを眺めると、上品そうな男女10名ほどが集っていた。私のようなドレスアップしている女子もいて安心したが、ラフな格好で参加している人もいた。
「えーと、みんなに紹介します!聖海女子大の2年生の梅枝七海さんです。」
「わー、かわいい!駿君の新しい彼女なの?」「どこで見つけてきたの?」「駿は手が早いから、気を付けてね!」とあちこちから囃し立てられた。

 七海は話し相手もなく退屈で、男子がやたらと勧めてくるシャンパンを何杯も飲んでいた。慣れない酒の廻りは早く、寄って来る男子に絡みながら酔いつぶれてしまった。気が付いた時にはベッドに寝かされており、頭の中が整理できないでいた。横には駿が眠っているのに気が付き、一気に目が覚めた。あわてて布団の中をのぞくと、ドレスは脱がされてあられもない姿をしている自分に二度びっくりした。
「わたし、どうしたの?」と思わず口をいて出た言葉に、彼が目を覚ました。
「ああ、気が付いた?良かった、急性アル中かと思って心配したよ!」
「何にも良くないです!裸同然の格好で、隣には駿さんが寝てるし…。」
「七海はシャンパンをあおるように飲んでいて、意識が飛んじゃったんだよ!友だちに医者の卵がいて、救急車を呼ぶまでもないと診断したんだ。それで女の子たちに手伝ってもらって、楽な格好にしてベッドに寝かせたんだよ。」
 彼の話を聞いて、薄らぼんやりと記憶がよみがえってきた。気を失っている私の周りで、「ドレスを脱がして、寝かそう」と話している声が聞こえていた。ただ、彼が横で寝ている意味が分からなかった。
「何となく思い出して来たけど、どうして駿さんが横に?」
「ああ、僕も酔っ払ってベッドに入ったんだ。温かくて、気持ち良かった!」
「あの、わたし、何かされたんですか?」と訊きにくい事を思い切って訊いてみた。
「何か?そういう何かの事?僕も法律家を志す身だからね、合意なくして刑法177条の強制性交等罪で訴えられても困るしね。心配しなくても、大丈夫だよ!」
「良かった!疑ってごめんなさい。」と言うと、「ただ、あんまり可愛い寝姿だったから、目の保養はさせてもらったよ!」とざれ事にしては下品な言葉をいていた。
 彼の節度ある態度に一応安心したが、自分の野放図のほうずな行為に嫌気がさした。

 七海は自分が嫌な事があったり、不満がうっ積したりすると、自暴自棄になる悪い癖があった。過去にも投げやりな行動に出て、後悔する事が何度かあった。今回も例外でなく、絵美里の妊娠が千宙と関係しているのではないかという疑念と、千宙への心残りが捨て鉢な気持ちにさせていた。
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