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第7章 秋庭二奈(19歳)=立松千宙(19歳)

§3危急の事態

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 11月の中旬、二奈は早番の仕事を終えてアパートに帰った。彼女が部屋のドアを開けて入ろうとした時、後ろから誰かに押されて玄関に突き倒された。後ろを振り返ると例のストーカー男で、二奈は驚いて腰が抜けたようになった。
「どうして、アパートを知ってるの?」とやっとの思いで訊くと、
「秋庭さんの事は、何でも知ってるよ!最近、変な男と一緒だから、中々会えなくて寂しかったよ!今日はゆっくりとお話ししましょ!」と薄ら笑いを浮かべていた。私はとにかく逃げなくてはと思い、油断させるために平静を装った。
「わたしに話って、何ですか?わたしは話す事はありませんけど。」
「前から言ってる通り、秋庭さんが好きなんだよ。やさしくするから、良いでしょ!」と言いながら、男は私に迫ってきた。私はありったけの声を張り上げて叫び、死に物狂いで抵抗した。すると男は人が変わったようになって、私を組み伏せようとしてきた。その時、玄関のドアがたたかれ、男が一瞬ひるんだすきに玄関へ走り寄り施錠を外した。二人の警官が中の様子を察して、男を連行していった。

 二奈の叫び声を聞いた隣人の男子学生が、異常を察知して交番に通報したのだった。男子学生は、以前からアパートの周りをうろついている男がいて、怪しいと思って注意していた。二奈は後からそれを聞いて、隣人に救われた思いだった。
 私は警察に事情聴取に呼ばれ、その男は住居不法侵入、暴行未遂、ストーカー規制法などで逮捕されたと聞いた。それでも一人でアパートに帰るのが怖くて、頼る相手もなく立松君に引受人として来てもらった。事情を知った彼は親身で、泣きじゃくる私を慰めてくれた。そして、足腰に力の入らない私を抱える様にして、アパートの部屋まで連れて行ってくれた。
「本当にありがとう!急に呼び出したりして、ごめんなさい!誰も頼れる人がいなくて、立松君しか思い浮かばなかった。何か、用事があったんじゃないの?」
「いいさ、秋庭さんの一大事だもん。ほっとけないよ!」と言う彼に、
「一人でいるのが怖くて、もう少し一緒にいてくれる?」と甘えていた。彼はやさしく「いいよ!」と言ってくれたが、落ち着かない様子だった。

 千宙は七海との約束が気になってはいたものの、二奈を捨て置く訳にもいかず、その晩はずっと彼女に付き添った。途中何度か七海に電話やメールをしたが、応答もなく返信もなかった。七海には事情を話せば分かってくれると、楽観視していた。
 それから1週間が経ち、二奈は落ち着きを取り戻していたが、バイトも辞めて新しいアパートを探し始めていた。千宙はあれ以来七海と連絡が取れない事を案じ、彼女の寮の前で待ち伏せていた所、彼女が男に身を預けながら帰って来るのを目撃した。その場に居たたまれず、自分の招いた誤解だとは言え、七海の節操のなさにあきれて別れる決心をした。
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