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十六話 ノランド・ファン・ローベル。アリアサイド

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 アリアサイド。

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 私とリナリー、ノヴァの三人で屋敷に入った時でした。

 笑顔を浮かべた金色の髪をオールバックにしたやせ型の中年男性が出迎えてくれました。

 その中年男性というのが私のお父様であるノランド・ファン・ローベルなのです。

 お父様は朗らかな笑みを浮かべて、手を広げて近づいていく。

「やぁやぁ、お帰り。アリア」

「あ、ただい帰りました。お父様」

 私がにっこりと笑みを浮かべて、お父様に頭を下げて帰宅を告げました。

 すると、【ハーネットの指輪】を通してノヴァの声が聞こえてきます。

『誰だ? 気持ち悪い笑顔のオッサンだな』

『ハハ……お父様です』

 ノヴァの言葉を聞いて私は心の中で苦笑するしかありませんでした。

 ただ、お父様が屋敷にいると思っていませんでした。

 今日は休日ではないはずで、しかもまだ昼過ぎなのです。

 貴族として役職があるお父様にしてはこんな早くに屋敷に居るのは珍しいです。

 そんなことを私が考えていると、お父様は私の隣にいたノヴァに気付いて首を傾げました。

「どこも怪我はない……ん? その猫はなんだい?」

「……あ、はい、この子はノヴァと言います。しばらくの間、この屋敷で飼いたいと思っているのですが、ダメでしょうか? ……もちろん、面倒はすべて私の方でしっかりと見ますので、お許しをいただけないでしょうか?」

 お父様の問いかけに私はノヴァを抱きかかえると、ノヴァを家に置く許可をもらうべく軽く頭を下げました

 そして、頭を上げて恐る恐るお父様に様子をうかがうと、お父様はニコリと笑って一回頷いていただけました。

「……そうか。アリアが面倒を見るのなら、構わないよ」

「本当ですか。ありがとうございます。お父様。……ふふ、しかし、お父様に出迎えていただけるとは思ってもいませんでした。今日は早いお帰りですね」

「あ、あぁ、そうだね」

 私がずっと気になっていたことを問いかけると、お父様はあからさまにばつが悪いと言った表情に……。

 ただ、それでもすぐに元の朗らかな笑顔を浮かべました。

「実は……今日、パランラート侯爵と会う約束があったんだ」

「そうでしたか」

「そうなんだよ。パランラート侯爵は大層私の贈り物を気に入ってくれて、私に新しい役職を与えてくれる約束をしてくれたのさ」

「え、しかし、お父様には今現在でも役職があるではないですか。その役職はどうされるのですか?」

 お姉様から聞きましたが……。

 ローベル家が代々継いでいた役職をやめて、多くの方々に贈り物を送って今の役職を得たのだと。

 そして、その贈り物をするために借金し家の財政を傾いたと聞いていました。

 ……そこまでして手に入れた今の役職を手放すのでしょうか?

 私は動揺するのを抑えられませんでした。

 ただ、当のお父様の表情は私の問いかけに不機嫌な表情となって、首を横に振りました。

「フン、あれは……もういい、私より若造の指図を聞くなんぞ堪えられん」

「そう……ですか?」

「そんなことより、今回の遠征での教会からのお給金はいくらになるのかな?」

「お給金?」

 私はお父様が何のことを言っているのか分からなかったので首を傾げて、聞き返します。

 すると、お父様はさらに笑みを深めました。

「あぁ。わざわざ魔法学園を休んでの長期遠征だ。教会から相当な給金が支払われるんだろ?」

「えっと、今回は教会からの依頼というわけではなく、聖獣様との聖約という特別な契約を結び私の治癒魔法の力を向上させるためのものだったので給金は出ないかと」

 確かに私は遠征に出掛けました。

 ただ、それは今回のノヴァ……聖獣様と【聖約】を結ぶためです。

 つまり、この遠征は私のためなのです。

 本来、この遠征の旅費を教皇様が出してくれるのもおかしいのだが、教会から給金をもらうのはもっとおかしいのです。

「ほ、本当かい? それは……こ、困ったなぁ。パランラート侯爵にまた贈り物を送ると約束したのに……どうしよう、どうしよう……そうだ、ママに相談しよう」

 私から給金が出ないことを告げられると、お父様は頭を抱えながら取り乱されました。そして、ぶつぶつと呟き、去っていったのです。

 私は……いや、おそらく私を含めたリナリー、ノヴァの三人はポカンと言った表情で見送るしかできませんでした。



 お父様を見送った後、私とリナリー、ノヴァは屋敷の中を私の部屋に向かって歩いていました。

『アイツがアリアの親父か……』

『ハハ……そうです』

 後ろから付いてきたノヴァからなんだか呆れたような言葉が聞こえてきました。対して私は苦笑するしかありません。

『アリアの親父さん、役職を手放すのか? ……役職っていうのは簡単に手に入るものなのか?』

『……いえ』

 ノヴァの問いかけに私は俯いて言葉を濁します。

 ローベル家が代々継いでいた役職をやめたのも、気に食わないことがあったからだと聞いています。

 もし、今の役職も同様の理由で辞めたとなると、父親は王宮が管理している貴族のブラックリストに載ってしまうのではないのでしょうか?

 コツコツコツ。

 私が思い悩んでいると、廊下の前方から複数の足音が聞こえてきました。

「何だ? 出掛けていると聞いていたが、帰っていたのか?」

 視線を前に向けると、私の兄にあたるフィリップ・ファン・ローベルがメイドを二人連れだって歩いてきた。

 お兄様はゆくゆくお父様が今やっている役職を引き継ぐために騎士見習いの仕事をしています。

 ちなみに騎士見習いは寮生活ということで屋敷にで見掛かるのは本当に久しぶりです。

「……はい、ただいま帰りました。お兄様、お久しぶりです」

「あぁ、久しぶり。アリアは魔法学校に通っているんだってな。無理はしないようにな」

「ありがとうございます」

「どうした? 元気無いようだが……何かあったのか?」

 お兄様はお父様とそりが合わなく、ことあるごとに言い争いしているので、先ほどお父様が役職をやめると言い出した件について伝えるべきか悩むところなのです。

 そもそも、まだお父様は一時的な感情で言っているだけで本当に役職をやめることになるか分からないのです。

 もし伝えたら、今日は一日、二人の口喧嘩することになるかも知れません。

 お父様は短気なので、口喧嘩の結果……役職をやめることをお父様が本当に決断してしまうかも知れないのです。

 しかし……このまま何も伝えなかったとしても……お兄様は私のことを勘ぐってお父様に話を聞きに行ってしまうかもしれません。

 んーここは本当のことを言った方がいいのでしょう。

 私は一瞬の沈黙のあとに、言いづらさを感じながら口を開きました。

「……えっと、今の役職をやめると話していました」

「な……本当かそれは?」

 私の言葉を聞いたお兄様は目を見開いて驚きの声を上げる。

「確かにそうおっしゃっていました」

「何を馬鹿な! すまんな、お父様に話をしてくる!」

 声を荒げたお兄様は居てもたっても居られないと言った様子で、おそらくお父様の部屋へ向かって走っていってしまいました。

「はぁ……」

 お兄様の後ろ姿を見送ると自然とため息が漏れてしまいました。すると、リナリーに背中をポンと軽く叩きました。

「アリア様、今日はお疲れでしょう。軽い軽食を後でお持ちするのでそれを食べたら、もうお休みした方がいいです」

「そうですね。お願いします。なんだか疲れてしまいました」





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