ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき

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後日談

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「義父上から手紙が来たよ。国王夫妻と王太子夫妻が、処刑されたそうだ」
「まあ、そうでしたの。では王家の皆様は全てお亡くなりに?」
「いや、幼い王子だけは残したと書いてある。彼が成人するまで、義父上が後見人を務めるそうだ」

 美しい花が咲き誇る庭を眺めながら、夫婦でお茶を楽しんでいる所である。会話の内容は、のどかなお茶会にはいささか向かないような気もするが。
 
「結局、全て義父上の筋書き通りになったな……。恐ろしい方だ。義父上と盟約を結んだのは正解だったよ」

 後見人といえば聞こえはいいが。幼い王を傀儡として実権を握る気であることくらいは、私にも分かる。
 
 父は秘密裏に貴族派と手を結んでいた。
 王家が強権を持って貴族たちを統べていたのは、数代前まで。すでにその地盤は崩れ落ちそうなほど揺らいでいる。
 短絡的な方策で国民を振り回す国王にも、国庫を圧迫するほどの浪費癖を持つ王妃にも、父はとっくの昔に見切りを付けていたのだ。
 
 それを分かっていたから、私は懸命にアレクシス殿下を支えようとした。
 父とて、年若い殿下に見所があると考えれば命までは取らないだろう。傀儡とはいえ、父の支えで国王として君臨する道もあったはずだ。
 
 だけど殿下は、年を重ねるごとに愚行が目に付くようになった。私や側近が自分より良い成績を取ったと癇癪を起こし、諫めるのも聞かず勉学を怠り遊興に耽る彼に、親愛の情はすり減って行く一方。
 剣術の訓練だと言って修練場に呼び出し、力の弱い私を打ち据えて「やはり女は駄目だな」と嘲笑ったこともある。耐えきれず王妃様にご相談しても「お前が至らないからだ」と叱られるだけだった。
 
 それを聞いた父は、アレクシス殿下を操り人形にすらならぬ愚物と判断した。そしてリュッケルト伯爵と組んで、あの娼婦の娘をけしかけたのだ。
 目論見通り殿下は彼女の虜となり、愚かにも私へ婚約破棄を言い渡した。

「済まない、クリスティーネ。元婚約者の訃報など、君へ聞かせるべきではなかったかな」

 考え込んでしまった私の顔を、夫が心配そうに覗き込む。殿下の死を悲しんでいると思ったのかもしれない。
 だけどそんな心配は無用なこと。婚約破棄の時点で、残り少ない親愛の情すら消え失せていたのだから……。この胸にあるのは、昔馴染みが天の国へ行ったという獏とした寂しさだけだ。
 
「いいえ。特に気にしておりませんわ。こうなることは分かっていましたもの」
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