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2. 三度目の正直
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時戻りを行った私は14歳に戻っていた。クライドと婚約する前だ。
一度目と同じようにロートン伯爵家から婚約が持ち込まれたが、断固拒否。
「あの方とは気が合いませんの。結婚しても不幸になるだけだと思いますわ」と言い張る私に、両親はそこまで相性が悪いのなら……と諦めた。
その後クライドはとある伯爵家の令嬢と婚約。彼女とは学院で顔見知りだったから、私は時期を見計らってクライドの浮気を教えてあげたわ。伯爵令嬢は怒り心頭で、婚約は速攻で破棄された。伯爵家同士だから婚約解消をごり押しすることも出来なかったみたい。
さらに元婚約者の父親に圧力を掛けられた貴族や商会から次々と取引を打ち切られ、事業が傾いて青息吐息だそう。いい気味だわ~。
私はといえば、別の相手――エドガー・ライルズ伯爵令息と婚約した。
父に頼んで念入りに身辺調査をして貰ったが、問題なし。女性関係についても綺麗なものだ。
「エドガー様には親しい女性はいらっしゃらないですか?」
「そんな人はいないよ」
「馴れ馴れしい幼馴染とか、病弱な従妹がいたりしません?」
「いないよ。ああ、浮気を心配してるのかい?婚約もしていない相手とみだりに親しくするなんて、貴族としてあり得ないだろう」
エドガーはとても優しかった。頻繁に会いに来てくれるし、贈り物も欠かさない。
前回の婚約者クライドと上手く行かなかったのは、私の方から歩み寄らなかったせいもあるかもしれない。勿論、浮気する奴が悪いのは大前提だけどね。
だから私は積極的にエドガーと交流を試み、ほんのりとだが彼を慕うようになった。きっと彼も同じように想ってくれているに違いない。今度こそ、幸せな結婚が出来る。そう思っていたのに。
「俺には真実の愛で結ばれた相手がいるんだ。君にはお飾りの妻でいてもらう」
今回の『真実の愛』のお相手はメイドだった。身分違いであることは互いに重々承知していたが、それはむしろ恋を燃え上がらせる材料になったらしい。
「俺たちの強い愛の前には、身分など些細な問題だ」と恍惚としながら話すエドガーには、怒りを通り越して寒気を覚えたわ。
婚約話が持ち上がったことを知り「私のことなんて忘れて、子爵家のご令嬢と幸せになって下さいませ」と泣きながら訴える彼女に、エドガーは心を打たれたという。
「彼女は慎ましくてか弱い女性だ。俺は生涯、彼女を守ると決めた」
ばっっかじゃねえの。慎ましい女が勤め先の令息と恋仲になるわけないじゃない。
そんな分かりやすい演技に騙されるなんて。男って、どうしてこうポンコツばかりなのかしら。
身辺調査をしても出てこなかったわけだ。二人は家の中でこっそり逢瀬を繰り返していたのだから。
「彼女が嫌がるから、お前とは床を共にしない」
「そんな……跡取りはどうするのです?」
「彼女に産んでもらうさ。届け出はお前の子供として出す。次期当主の母親として遇されるんだから、それでいいだろう?」
つまり、夫が愛人といちゃいちゃするのを眺めながら産んでもいない子供を育てろと?
「酷すぎます!お義父様に全部お話しします。離縁させてもらうわ!」
「父上も母上も、承知の上だ」
そもそも、私との婚約を進めたのは義父のライルズ伯爵だった。義父はメイドを愛人として囲うことを認める代わりに、エドガーに私との婚約を吞ませたのだ。
婚約期間中にエドガーや義両親が優しかったのは、私を逃がさないため。格下の子爵家の娘なら言いなりに出来ると思ったらしい。
このまま一生、お飾りの妻として生きていくのか。私を家族としてすら扱う気のない夫や義両親と共に?
……冗談じゃない。そんなお先真っ暗の人生は御免だ。
私はまた、時戻りの時計を使うことを決意した。
そして三度目の14歳。今回の婚約相手であるマーヴィン・ファインズ子爵令息は少し気が弱いし、見た目も地味だが優しい人だ。今度は家中まできっちり調べ上げ、女性関係が全く無いことも確認した。
ああ、勿論エドガーとクライドは前回同様、婚約者に浮気相手の存在を教えて差し上げたわよ。
クライドは二度目と同じく、婚約破棄された。
エドガーの方は結婚したけれど、妻は愛人を認める代わりにライルズ伯爵家の実権を手中に収めたらしい。義両親は領地に追いやり、愛人とクライドは別邸に放り込んだ。本邸には妻の実家の者が入り込み、好き放題やっているとか。したたかな女性だわね。
二人の女性が不幸になるところを防げたのだから、良いことをしたと思うわ!
「今まで、女性に接する機会があまり無くて……。不作法もあるかと思うが許して欲しい」
「経験がないのは私も同じですわ。互いに、気に入らないところは話し合って改善していきましょう」
私たちはゆっくりと距離を縮め、成人後に無事結婚した。たまに喧嘩することもあるが政略結婚にしては仲の良い方だと思う。ほどなく長男が生まれ、アーサーと名付けた。
「お父さま~、このご本を読んでください」
「駄目よ、アーサー。お父様はお仕事中よ」
「構わないよ、そろそろ休憩しようと思っていたから。おいで、アーサー」
息子はマーヴィンの膝に飛び乗り、絵本の朗読を嬉しそうに聞いている。
なんて微笑ましくて幸せな光景だろう。それを眺める私や使用人はニッコニコ、義両親であるファインズ子爵夫妻は孫の愛らしさにデレデレだ。
東方の国には「三度目の正直」という格言があるらしい。
アーサーはすくすくと育っているし、夫婦仲は良好。義両親とも使用人ともうまくやっている。
格言の通りだ。私は三度目で、ようやく幸せな結婚を掴めたのよ。
――そう思っていたのは、私だけだったらしい。
「ビアンカ。済まない……離縁して欲しい」
一度目と同じようにロートン伯爵家から婚約が持ち込まれたが、断固拒否。
「あの方とは気が合いませんの。結婚しても不幸になるだけだと思いますわ」と言い張る私に、両親はそこまで相性が悪いのなら……と諦めた。
その後クライドはとある伯爵家の令嬢と婚約。彼女とは学院で顔見知りだったから、私は時期を見計らってクライドの浮気を教えてあげたわ。伯爵令嬢は怒り心頭で、婚約は速攻で破棄された。伯爵家同士だから婚約解消をごり押しすることも出来なかったみたい。
さらに元婚約者の父親に圧力を掛けられた貴族や商会から次々と取引を打ち切られ、事業が傾いて青息吐息だそう。いい気味だわ~。
私はといえば、別の相手――エドガー・ライルズ伯爵令息と婚約した。
父に頼んで念入りに身辺調査をして貰ったが、問題なし。女性関係についても綺麗なものだ。
「エドガー様には親しい女性はいらっしゃらないですか?」
「そんな人はいないよ」
「馴れ馴れしい幼馴染とか、病弱な従妹がいたりしません?」
「いないよ。ああ、浮気を心配してるのかい?婚約もしていない相手とみだりに親しくするなんて、貴族としてあり得ないだろう」
エドガーはとても優しかった。頻繁に会いに来てくれるし、贈り物も欠かさない。
前回の婚約者クライドと上手く行かなかったのは、私の方から歩み寄らなかったせいもあるかもしれない。勿論、浮気する奴が悪いのは大前提だけどね。
だから私は積極的にエドガーと交流を試み、ほんのりとだが彼を慕うようになった。きっと彼も同じように想ってくれているに違いない。今度こそ、幸せな結婚が出来る。そう思っていたのに。
「俺には真実の愛で結ばれた相手がいるんだ。君にはお飾りの妻でいてもらう」
今回の『真実の愛』のお相手はメイドだった。身分違いであることは互いに重々承知していたが、それはむしろ恋を燃え上がらせる材料になったらしい。
「俺たちの強い愛の前には、身分など些細な問題だ」と恍惚としながら話すエドガーには、怒りを通り越して寒気を覚えたわ。
婚約話が持ち上がったことを知り「私のことなんて忘れて、子爵家のご令嬢と幸せになって下さいませ」と泣きながら訴える彼女に、エドガーは心を打たれたという。
「彼女は慎ましくてか弱い女性だ。俺は生涯、彼女を守ると決めた」
ばっっかじゃねえの。慎ましい女が勤め先の令息と恋仲になるわけないじゃない。
そんな分かりやすい演技に騙されるなんて。男って、どうしてこうポンコツばかりなのかしら。
身辺調査をしても出てこなかったわけだ。二人は家の中でこっそり逢瀬を繰り返していたのだから。
「彼女が嫌がるから、お前とは床を共にしない」
「そんな……跡取りはどうするのです?」
「彼女に産んでもらうさ。届け出はお前の子供として出す。次期当主の母親として遇されるんだから、それでいいだろう?」
つまり、夫が愛人といちゃいちゃするのを眺めながら産んでもいない子供を育てろと?
「酷すぎます!お義父様に全部お話しします。離縁させてもらうわ!」
「父上も母上も、承知の上だ」
そもそも、私との婚約を進めたのは義父のライルズ伯爵だった。義父はメイドを愛人として囲うことを認める代わりに、エドガーに私との婚約を吞ませたのだ。
婚約期間中にエドガーや義両親が優しかったのは、私を逃がさないため。格下の子爵家の娘なら言いなりに出来ると思ったらしい。
このまま一生、お飾りの妻として生きていくのか。私を家族としてすら扱う気のない夫や義両親と共に?
……冗談じゃない。そんなお先真っ暗の人生は御免だ。
私はまた、時戻りの時計を使うことを決意した。
そして三度目の14歳。今回の婚約相手であるマーヴィン・ファインズ子爵令息は少し気が弱いし、見た目も地味だが優しい人だ。今度は家中まできっちり調べ上げ、女性関係が全く無いことも確認した。
ああ、勿論エドガーとクライドは前回同様、婚約者に浮気相手の存在を教えて差し上げたわよ。
クライドは二度目と同じく、婚約破棄された。
エドガーの方は結婚したけれど、妻は愛人を認める代わりにライルズ伯爵家の実権を手中に収めたらしい。義両親は領地に追いやり、愛人とクライドは別邸に放り込んだ。本邸には妻の実家の者が入り込み、好き放題やっているとか。したたかな女性だわね。
二人の女性が不幸になるところを防げたのだから、良いことをしたと思うわ!
「今まで、女性に接する機会があまり無くて……。不作法もあるかと思うが許して欲しい」
「経験がないのは私も同じですわ。互いに、気に入らないところは話し合って改善していきましょう」
私たちはゆっくりと距離を縮め、成人後に無事結婚した。たまに喧嘩することもあるが政略結婚にしては仲の良い方だと思う。ほどなく長男が生まれ、アーサーと名付けた。
「お父さま~、このご本を読んでください」
「駄目よ、アーサー。お父様はお仕事中よ」
「構わないよ、そろそろ休憩しようと思っていたから。おいで、アーサー」
息子はマーヴィンの膝に飛び乗り、絵本の朗読を嬉しそうに聞いている。
なんて微笑ましくて幸せな光景だろう。それを眺める私や使用人はニッコニコ、義両親であるファインズ子爵夫妻は孫の愛らしさにデレデレだ。
東方の国には「三度目の正直」という格言があるらしい。
アーサーはすくすくと育っているし、夫婦仲は良好。義両親とも使用人ともうまくやっている。
格言の通りだ。私は三度目で、ようやく幸せな結婚を掴めたのよ。
――そう思っていたのは、私だけだったらしい。
「ビアンカ。済まない……離縁して欲しい」
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