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第三章 砂漠の花嫁編
134. 大切な誰か
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「あれ……。私、どうしてここに……」
眼前に、色とりどりの花が咲き乱れる美しい庭園が広がっている。見覚えがあるような……そうか。王宮の庭園だ。
庭へ響き渡るようにリーンゴーン、リーンゴーンという鐘の音が鳴った。
「アニエス」
そこにいたのは、礼服を身に纏ったフェリクス様。ふと自分の姿を見ると、真っ白なウェディングドレスを来ていた。
そうだった。今日は私とフェリクス様の結婚式だ。
私ったら、何をぼうっとしていたのかしら。
「そろそろ時間だよ。行こうか」
「はい」
差し伸べられた手を取って二人で歩いて行く。いつ間にか、たくさんの参列者が集まっていた。
見知った顔ばかりだ。お師匠様にディアーヌ様、アンナさんにセリアさん、学園の友人たち……。
その中に、マティアス王子の姿もあった。
「おめでとう、アニエス。幸せそうで良かった」
「ありがとうございます、殿下」
優しく微笑んだ彼のそばに、見知らぬ女性が寄り添っている。
きっとマティアス様もお幸せなんだわ。こうやって、私のことを祝って下さるくらいに。
拍手の中を歩いていると、二人の男女が目に入った。そのよく見知った背中……懐かしい、その姿。
「お父さん、お母さん!?」
「アニエス。おめでとう」
「二人ともどうしてここに?」
「シャンタル様が呼んで下さったのよ。これから、貴方たちと一緒に住んでも良いのですって」
「本当!?」
驚く私の肩をフェリクス様が抱いた。
「ああ、本当だよ。俺たちとご両親、シャンタル殿。皆で共に暮らそう」
「ありがとうございます、フェリクス様。私、とっても幸せです」
ああ、なんて幸せなのだろう。
夢見心地で彼の腕へ寄り添う私に、誰かの泣き声が聞こえてきた。
誰……?
周りはみんなニコニコと微笑んでいる。泣いている人はいない。
でも、何だろう。何だか大切なことを忘れている気がする。
泣いている、誰か。
私にとって何よりも大切な……。
「アニエス!?」
自分の部屋だった。ベッドに寝たままの私をフェリクス様が覗き込んでいる。
どうして彼が私の部屋に?
明るいから昼間よね。私、どうしてこんな時間に寝ているのかしら?
「えっと、フェリクス様?これはどういう状況で……」
慌てて起きあがった私を、フェリクス様がいきなり抱きしめる。
「きゃっ」
「アニエス!良かった。本当に良かった……!」
フェリクス様の瞳から涙が零れていた。
夢の中で泣いていたのは彼だったかしら……?
何だか、ずいぶん幸せな夢を見ていた気がする。
その後は飛んで来たお師匠様に抱きしめられたり、泣き出したアンナさんやセリアさんを宥めたりする一悶着の後、お師匠様が私の身体に異常がないか調べてくれた。
服を脱ぐのでフェリクス様は外で待機だ。
「見たところ、問題は無さそうだね。どこか調子の悪いところはあるかい?」
「ちょっと目眩がします」
その途端、お腹がぐうううと大きな音を立てた。
恥ずかしくて真っ赤になってしまった私を見て、お師匠様が笑う。
「一週間も食べてなかったのだから仕方ないさね。セリア、何か食べる者を用意してくれ。いきなり重い物は身体に負担がかかるから、柔らかい物を頼むよ」
「承知致しました。パン粥をお作りしましょう」
セリアさんが去っていったあと、お師匠様が私の頭を撫でる。
「済まなかったね。私が不注意だった。……よく夢から出てきてくれた」
「お師匠様も、あのお香を?」
「うん。何というか、あのままずっと眠っていたくなる時間だった。今の生活に不満があるわけじゃないんだけどね」
お師匠様はそこまで話して黙ってしまった。
不満なんて、私もない。お師匠様も私も、愛する人との結婚を控えた一番幸せな時期だと思う。だけど、新生活に対する不安はどこかにある。
その隙を、魔霊術に突かれたのではないだろうか。
私がそう話すと、お師匠様は「そうだね。きっとその通りだ」と微笑んだ。その笑みがどこか固い感じだったのは、私の気のせいだろうか。
眼前に、色とりどりの花が咲き乱れる美しい庭園が広がっている。見覚えがあるような……そうか。王宮の庭園だ。
庭へ響き渡るようにリーンゴーン、リーンゴーンという鐘の音が鳴った。
「アニエス」
そこにいたのは、礼服を身に纏ったフェリクス様。ふと自分の姿を見ると、真っ白なウェディングドレスを来ていた。
そうだった。今日は私とフェリクス様の結婚式だ。
私ったら、何をぼうっとしていたのかしら。
「そろそろ時間だよ。行こうか」
「はい」
差し伸べられた手を取って二人で歩いて行く。いつ間にか、たくさんの参列者が集まっていた。
見知った顔ばかりだ。お師匠様にディアーヌ様、アンナさんにセリアさん、学園の友人たち……。
その中に、マティアス王子の姿もあった。
「おめでとう、アニエス。幸せそうで良かった」
「ありがとうございます、殿下」
優しく微笑んだ彼のそばに、見知らぬ女性が寄り添っている。
きっとマティアス様もお幸せなんだわ。こうやって、私のことを祝って下さるくらいに。
拍手の中を歩いていると、二人の男女が目に入った。そのよく見知った背中……懐かしい、その姿。
「お父さん、お母さん!?」
「アニエス。おめでとう」
「二人ともどうしてここに?」
「シャンタル様が呼んで下さったのよ。これから、貴方たちと一緒に住んでも良いのですって」
「本当!?」
驚く私の肩をフェリクス様が抱いた。
「ああ、本当だよ。俺たちとご両親、シャンタル殿。皆で共に暮らそう」
「ありがとうございます、フェリクス様。私、とっても幸せです」
ああ、なんて幸せなのだろう。
夢見心地で彼の腕へ寄り添う私に、誰かの泣き声が聞こえてきた。
誰……?
周りはみんなニコニコと微笑んでいる。泣いている人はいない。
でも、何だろう。何だか大切なことを忘れている気がする。
泣いている、誰か。
私にとって何よりも大切な……。
「アニエス!?」
自分の部屋だった。ベッドに寝たままの私をフェリクス様が覗き込んでいる。
どうして彼が私の部屋に?
明るいから昼間よね。私、どうしてこんな時間に寝ているのかしら?
「えっと、フェリクス様?これはどういう状況で……」
慌てて起きあがった私を、フェリクス様がいきなり抱きしめる。
「きゃっ」
「アニエス!良かった。本当に良かった……!」
フェリクス様の瞳から涙が零れていた。
夢の中で泣いていたのは彼だったかしら……?
何だか、ずいぶん幸せな夢を見ていた気がする。
その後は飛んで来たお師匠様に抱きしめられたり、泣き出したアンナさんやセリアさんを宥めたりする一悶着の後、お師匠様が私の身体に異常がないか調べてくれた。
服を脱ぐのでフェリクス様は外で待機だ。
「見たところ、問題は無さそうだね。どこか調子の悪いところはあるかい?」
「ちょっと目眩がします」
その途端、お腹がぐうううと大きな音を立てた。
恥ずかしくて真っ赤になってしまった私を見て、お師匠様が笑う。
「一週間も食べてなかったのだから仕方ないさね。セリア、何か食べる者を用意してくれ。いきなり重い物は身体に負担がかかるから、柔らかい物を頼むよ」
「承知致しました。パン粥をお作りしましょう」
セリアさんが去っていったあと、お師匠様が私の頭を撫でる。
「済まなかったね。私が不注意だった。……よく夢から出てきてくれた」
「お師匠様も、あのお香を?」
「うん。何というか、あのままずっと眠っていたくなる時間だった。今の生活に不満があるわけじゃないんだけどね」
お師匠様はそこまで話して黙ってしまった。
不満なんて、私もない。お師匠様も私も、愛する人との結婚を控えた一番幸せな時期だと思う。だけど、新生活に対する不安はどこかにある。
その隙を、魔霊術に突かれたのではないだろうか。
私がそう話すと、お師匠様は「そうだね。きっとその通りだ」と微笑んだ。その笑みがどこか固い感じだったのは、私の気のせいだろうか。
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