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第三章 砂漠の花嫁編
125. 行き詰まり
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軟禁状態となった私たちだが、意外にも待遇は悪くなかった。食事はきちんとしたものが出されるし、定期的に掃除もしてくれる。エドヴィージュ様やヨランド様からは、せめて無聊を慰めてほしいとお菓子や酒が届けられた。外で見張っている衛兵の検閲を受けた上で、だが。
私はアニエスやジュディットと、あの瓶を前に顔を付き合わせていた。ジュディットはだいぶ回復し、ベッドから起き上がれるまでになっていた。
「どこでこの瓶を入れられたか、ですね」
「このポシェットは、王宮の外へ出るときしか持参してないわ」
私たちは王宮の一室に宿泊させてもらっていた。そのため、王宮内の夜会などに出席する際は手荷物を持ち歩く必要が無かったのだ。
「とすると、限られてくるな。王都の見学と鉱山の視察と……」
「後はシビーユ様の館に招かれたときでしょうか」
「でも、ずっと身につけていたわ。お手洗いに行くときはジュディットが同伴してくれていたし」
「そうでしたね。ちなみに、中身はやはり毒だったのでしょうか?」
私は瓶に入っていた薬を調べ、既にランキュラを使った毒であることは突き止めていた。
「ああ。症状からしてスープに入っていたものと同じ毒で間違いないだろう。ただ……大量に接種すると死に至るものだが、スープ一杯に含まれる量では命まで失うことはないと思う」
「犯人さんが分量を間違えたとか?」
犯人にさん付けは不要だと思うよ、アニエス。
「暗殺が目的ではないかもしれませんね。我々に罪を被せようとした可能性も考えられます」
「この国に来たばかりの私たちに、そこまで害意を持つかしら?」
「恨みなんて、どこで買っているか分からないよ。自分に覚えが無くてもね」
「シャンタル様のおっしゃるとおりです。もちろん確証があるわけではないですし、我々の預かり知らぬ目的があるのかもしれませんが」
我々がたまたま罪を被せるに都合の良い存在だった、という可能性は十二分にある。
「どちらにしろ、ここに閉じこめられたままでは動きようが無いな」
「それなんですよね……」
外に協力者がいればと思うが、そもそも連絡手段がない。手紙は当然、見張りの検閲を受けるだろう。精霊士相手なら精霊を使えば簡単な連絡は出来るが、この国の精霊士たちが味方になってくれる保証がない。
八方ふさがりだ。
だが悶々としながらただ時間が過ぎてゆくのを待っていた私たちに、救いが現れた。
「ヨランド様!?」
「僕もいるよ!」
掃除のために入ってきた使用人に、ヨランド様とイヴォン殿下が紛れていたのだ。二人はショールをかぶり使用人の服を着ていたため、衛兵の目を誤魔化せたらしい。
一緒に来た使用人もヨランド様の手の者らしく、私たちがしゃべっている間は大きな音を立てて掃除をしていた。話し声が外へ聞こえないようにするためだ。
「あらぬ疑いをかけられて、さぞ心痛でしょう。私も夫人たちに働きかけてはいるのですが、ヤン大臣の一派を崩せなくて」
イヴォン殿下の婚約者たちもアニエスを心配し、事態を動かすべくそれぞれの父親へ働きかけているらしい。だがヤン大臣とその派閥が強硬に私たちの解放を受け入れないのだ、とヨランド様は語った。
「ありがとうございます。ヨランド様にそのように仰って頂けただけでも、心強いです」
「あなた方はイヴォンとゼナイドの恩人ですもの。アシャール家たるもの、受けた恩は忘れませんわ、アニエス様」
少なくとも、ヨランド様とイヴォン殿下は味方と考えて良さそうだ。ジュディットに目配せすると、彼女も同意だという風に頷く。
私はあの瓶を取り出して、お二人に説明した。
「つまり、あなた方に罪を被せようとしたのね」
彼女はすぐに事情を把握した。頭の良い方だ。
「信じて頂けますか」
「もちろん。これでも人を見る目はある方だと自負しているのよ」
「でも、犯人は誰なんだろう。アニエスは僕が頼んで招待してもらったんだよ。彼女に罪を着せて何のメリットがあるの?」
「それはまだ分かりませんよ。ただ、次もあると考えた方が良いのではないかしら」
「そうですね。瓶を隠したことで彼らの目論見が失敗したのです。同様に仕掛けてくる可能性は高いでしょう」
ジュディットがふむふむと頷きながら答える。
「一回失敗した手をまた使うかなあ」
「こちらがそう考えていると、向こうも思うでしょう。あるいは今回と違う手段でくるかもしれません」
「それって、マズいじゃない!母上、何とかならない?」
「……そうね。この件はいったん、私に預からせてもらえるかしら」
私たちが動けない以上、ヨランド様に頼るしかない。彼女へ任せることに決まり、二人はまたショールを被って帰って行った。
私はアニエスやジュディットと、あの瓶を前に顔を付き合わせていた。ジュディットはだいぶ回復し、ベッドから起き上がれるまでになっていた。
「どこでこの瓶を入れられたか、ですね」
「このポシェットは、王宮の外へ出るときしか持参してないわ」
私たちは王宮の一室に宿泊させてもらっていた。そのため、王宮内の夜会などに出席する際は手荷物を持ち歩く必要が無かったのだ。
「とすると、限られてくるな。王都の見学と鉱山の視察と……」
「後はシビーユ様の館に招かれたときでしょうか」
「でも、ずっと身につけていたわ。お手洗いに行くときはジュディットが同伴してくれていたし」
「そうでしたね。ちなみに、中身はやはり毒だったのでしょうか?」
私は瓶に入っていた薬を調べ、既にランキュラを使った毒であることは突き止めていた。
「ああ。症状からしてスープに入っていたものと同じ毒で間違いないだろう。ただ……大量に接種すると死に至るものだが、スープ一杯に含まれる量では命まで失うことはないと思う」
「犯人さんが分量を間違えたとか?」
犯人にさん付けは不要だと思うよ、アニエス。
「暗殺が目的ではないかもしれませんね。我々に罪を被せようとした可能性も考えられます」
「この国に来たばかりの私たちに、そこまで害意を持つかしら?」
「恨みなんて、どこで買っているか分からないよ。自分に覚えが無くてもね」
「シャンタル様のおっしゃるとおりです。もちろん確証があるわけではないですし、我々の預かり知らぬ目的があるのかもしれませんが」
我々がたまたま罪を被せるに都合の良い存在だった、という可能性は十二分にある。
「どちらにしろ、ここに閉じこめられたままでは動きようが無いな」
「それなんですよね……」
外に協力者がいればと思うが、そもそも連絡手段がない。手紙は当然、見張りの検閲を受けるだろう。精霊士相手なら精霊を使えば簡単な連絡は出来るが、この国の精霊士たちが味方になってくれる保証がない。
八方ふさがりだ。
だが悶々としながらただ時間が過ぎてゆくのを待っていた私たちに、救いが現れた。
「ヨランド様!?」
「僕もいるよ!」
掃除のために入ってきた使用人に、ヨランド様とイヴォン殿下が紛れていたのだ。二人はショールをかぶり使用人の服を着ていたため、衛兵の目を誤魔化せたらしい。
一緒に来た使用人もヨランド様の手の者らしく、私たちがしゃべっている間は大きな音を立てて掃除をしていた。話し声が外へ聞こえないようにするためだ。
「あらぬ疑いをかけられて、さぞ心痛でしょう。私も夫人たちに働きかけてはいるのですが、ヤン大臣の一派を崩せなくて」
イヴォン殿下の婚約者たちもアニエスを心配し、事態を動かすべくそれぞれの父親へ働きかけているらしい。だがヤン大臣とその派閥が強硬に私たちの解放を受け入れないのだ、とヨランド様は語った。
「ありがとうございます。ヨランド様にそのように仰って頂けただけでも、心強いです」
「あなた方はイヴォンとゼナイドの恩人ですもの。アシャール家たるもの、受けた恩は忘れませんわ、アニエス様」
少なくとも、ヨランド様とイヴォン殿下は味方と考えて良さそうだ。ジュディットに目配せすると、彼女も同意だという風に頷く。
私はあの瓶を取り出して、お二人に説明した。
「つまり、あなた方に罪を被せようとしたのね」
彼女はすぐに事情を把握した。頭の良い方だ。
「信じて頂けますか」
「もちろん。これでも人を見る目はある方だと自負しているのよ」
「でも、犯人は誰なんだろう。アニエスは僕が頼んで招待してもらったんだよ。彼女に罪を着せて何のメリットがあるの?」
「それはまだ分かりませんよ。ただ、次もあると考えた方が良いのではないかしら」
「そうですね。瓶を隠したことで彼らの目論見が失敗したのです。同様に仕掛けてくる可能性は高いでしょう」
ジュディットがふむふむと頷きながら答える。
「一回失敗した手をまた使うかなあ」
「こちらがそう考えていると、向こうも思うでしょう。あるいは今回と違う手段でくるかもしれません」
「それって、マズいじゃない!母上、何とかならない?」
「……そうね。この件はいったん、私に預からせてもらえるかしら」
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