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第二章 試験編

67. 旅立ち

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「それでは行って参ります」
「吉報を待っているよ」
「お嬢様、気をつけていってらっしゃいませ」

 お師匠様やアンナさんセリアさんに見送られて、私はクレシア教国へ向けて出発した。
 同行して下さる騎士様は二人。
 一人目は男性騎士のディオン様。大柄な身体に短く刈り込んだ髪で、声が大きくて明るい方だ。見るからにお強そう。
 もう一人は女性騎士のニコル様。切りそろえた短髪にすらっとした身体ではきはきと喋る、とっても格好良い女性だ。

 少し小さめの馬車は、フェリクス様が用意して下さったそうだ。王宮の馬車にはラングラン王家の印がついているし、いかにもお金がありそうに見えると盗賊に狙われるから、だそうだ。
 馬車には私とニコル様が乗り、ディオン様が御者席に座っている。

 ここから北側の国境を越えてエルヴス王国を通り抜け、クレシアへ向かう。最初の目的地はエルヴスの王都、ルーストナだ。
 少し遠回りになるけれど、王都ならば食料などの調達がしやすい。それに安全性セキュリティの高い宿を選べるから、ということらしい。


 二コル様は黙って向かいに座っている。何だか手持ち無沙汰なので私から話しかけてみた。

「ニコル様とディオン様は、お師匠様の護衛をされたことがあるのですよね?」
「どうぞ、呼び捨てで。アニエス様はいずれ、フェリクス殿下の妃となられる方。私どもへ敬称を使う必要はありません」

 騎士様をいきなり呼び捨てなんて私には無理なので、間をとって”さん”付けで呼ぶことで納得してもらった。

「はい。例の病が流行ったときに、ベルジェ伯領までお共致しました。女性の護衛なので私が呼ばれたようです」

 女性の要人、特に未婚の令嬢の護衛には女性騎士を選ぶことが多いそうだ。若い男性騎士をつけることで万が一にも問題が起きないように、との配慮らしい。
 もう一人の護衛が男性なのは、女性騎士の数が少ないことと、男性のいる方が様々なトラブルを回避しやすいのだと二コルさんが教えてくれた。
 どういうトラブルかよく分からないけど。

「女性の騎士様はあまりいらっしゃらないのですか?」
「男性騎士に比べると圧倒的に少ないです。需要は多いので、増えてほしいところですが」

 騎士になれるのは、貴族階級で跡取りではない子息や令嬢だ。
 貴族のご令嬢ならば貴族男性へ嫁ぐのが普通だものね。ニコルさんもご両親から嫁ぐように言われたけれど、騎士の道を選んだそうだ。

「自分の力で生き抜いてみたいと思ったのです。母には泣かれました。貴族の令嬢としては、失格なのでしょうね」
「貴族様の考え方は私には分かりませんが、ニコルさんの選択はとても格好良いと思います」
「……ありがとうございます」

 彼女がクスッと微笑んだ。
 ずっと無表情で少しとっつきにくい方だと思っていたけれど、柔らかい微笑みはとても可愛らしい。

「アニエス様にもいずれ専属の女性騎士が着くでしょう。既に選定が始まっていると聞いています」
「えっ、知らなかった……。まだ婚約発表もしていないのに?」
「専属護衛騎士候補は、見習いの段階から特別な教育プログラムを受けます。アニエス様のご婚約を見据えれば、遅すぎるくらいかと。最有力候補はアルシェ子爵家の令嬢と聞いています」

 アルシェ子爵家……。どこかで聞いたような?

「あ。ロベール様のご実家ですか?」
「はい。フェリクス様の護衛騎士、ロベール・アルシェの妹御です」

 アルシェ家は代々騎士を輩出している名門で、その妹さんも幼い頃から騎士を目指していたんだとか。
 ニコルさんから見ても、結構腕の立つ女性らしい。帰ったらロベール様にどんな方か聞いてみようっと。
 
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