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第二章 試験編

64. 説得と決意

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 学園から帰宅したアニエスに、早速試験の話をした。
 驚く彼女にフェリクス殿下の現状も含めて淡々と説明する。
 
「フェリクス様に、そこまでご迷惑を掛けていたなんて」

 アニエスがしょんぼり顔になった。
 しまった。
 この子は自己評価が限りなく低いのだ。こんな事を聞いたら、また自分を責めてしまう。

「そこは気にする必要はないんじゃないか?殿下も多少の困難は承知の上で、お前を選んだのだろうから」
「でもっ、ちゃんとした家のご令嬢だったなら、すぐに婚約を発表できたわけですし……」
「あのな、アニエス」

 私は両手でアニエスの頬を持ち、目線を合わせた。
 そんないじけた考え方は気に入らない。お前は、このシャンタル様の弟子なんだぞ。

「殿下を選んだのはお前自身だろう。それならお前も彼の横に立てるよう、この程度の困難くらい乗り越える気概を持つべきじゃないのか?」
「乗り越える……」
「フェリクス殿下だけに負担を掛けていいのかい?それともいっそ諦めて、他の令嬢に妻の座を譲るか?」
「それは……嫌です」

 アニエスがふるふると首を振りながら、そう答えた。
 その目に決意の光が宿っている。

 良かった。もどかしいくらい自己主張しない子だが、フェリクス殿下のことだけは譲れないらしい。
 私は頬から手を離し、彼女の頭を撫でた。

「よしよし。じゃあ、試験を受けるんだな」
「はい。でも、私なんかが受けて良いのでしょうか」
「まあ、考えていたよりはだいぶ早いけど。今のお前なら十分に合格できると思うよ」
「あの……精霊士になったら、この家から出て行けば良いのでしょうか」
「へっ?」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。
 
 あ。そういうことか。
 彼女を引き取ったときに、私が言ったんだった。
「精霊士として一人前になるまで、師匠としてお前の面倒を見る」って。
 
 十年前のことだから、すっかり忘れていた。
 
「未成年のお前を放り出す訳ないだろう。ここはお前の家でもあるんだ。フェリクス殿下の所へ嫁に行くまで、ここに居ていいんだよ」

 それを聞いてホッとした顔のアニエスが「分かりました。試験を受けます」とハッキリ答えた。

「それじゃ、準備を進めておくよ。ちなみに、試験場所であるクレシア教国まではお前一人で行くんだ。これも修行のうちだからね」
「ええ!?」
「お前が受けると言ったんだ、撤回は無しだよ」

 先ほどの決意はどこへやら、おろおろとし出したアニエスを尻目に私はクレシアへ出す手紙をしたためた。
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