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第一章 移住編

幕間5. 真夏のバカンス(1)

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 ※ 本編40話前後くらいのエピソードです。

 夏の日差しが湖面に照りつけている。
 山間地域にあるラングラルといえど、この季節は暑い。湖に湛えられた涼しげな水へ入れば、さぞ気持ち良いだろう。
 その湖岸では、学園の生徒たちが楽しそうに涼を取っていた。

「いや~、いい眺めっすねえ。目の保養だ」

 俺の隣に立つパトリックが、きゃいきゃいとはしゃぐ女生徒たちを見ながらのたまった。
 普段は淑女らしい服装の彼女たちも、バカンス向けの薄着になっているのだ。

「浮つくんじゃない、パトリック。俺たちの役目は、彼らの警護だということを忘れるな」
「分かってますよう、フェリクス殿下」

 夏休み終盤の今日は、王都からほど近いシーニュ湖で課外学習が開かれている。学習とは名ばかりで、実際はバカンスなのだが。
 例年、普段より開放的な気分になった生徒たちがいざこざを起こしたり、無茶をして怪我をしたりするのだ。そのため、俺は騎士数名を連れて警護と見回りに当たっている。
 一応、俺は風紀委員長なのだ。普段はあまり学園に顔を出さないため、名ばかりとなっているが。このような時くらい、しっかり役目を果たさないと。


「フェリクス殿下~!」

 向こうから手を振りながら走ってくるのは、アニエスとディアーヌだ。
 今日のアニエスは、フリルのついたノースリーブの上着とミニスカート姿だ。細く白い手足がまぶしい。
 ああ……。なんて可憐なんだ……。

 はっ。
 パトリックがニヤニヤとこちらを見ているのに気付いた俺は、慌てて顔を引き締めた。

「アニエス、楽しんでいるか?その水着、とても似合っている」
「あら、私は誉めていただけないんですの?」
「ディアーヌも似合っているぞ」
「取って付けたような誉め言葉ですわねぇ」
「そ、そんなことはない……」
「殿下、ディアーヌ様が甘いものを持ってきて下さったのです。あちらで一緒に休息しませんか?」

 アニエスが話を反らしてくれた。この気の使いよう、実に彼女らしい。
 誘いは嬉しかったが、警護中のため断った。残念だけども。

「ちょっとくらい、抜け出しても良かったんじゃないすかね」
「いや、騎士を率いる俺が浮ついた姿を晒すわけには……むっ」

 アニエスとディアーヌが数名の男子生徒に囲まれていた。あれは確か、ドゥブレー公爵家の次男坊だったか。女癖が悪いと有名な生徒だ。
 慣れ慣れしく彼女たちの肩に触れようとしている。ディアーヌが前に立って断っているようだが、相手の爵位が高いため強く出られない様子だ。
 俺が注意せねば。そう思って走り寄ろうとしたその時。

「仮にも我が学園の生徒が、そのような行為は感心しないな」
「なんだ、邪魔す……ジェラルド殿下!?」

 いつの間にか、叔父上が彼らの後ろに立っていた。

「彼女たちの美しい装いに惹かれてしまうのは分からなくもないが、貴族として品位のある行いを忘れてはいかんぞ」
「は、はひっ。申し訳ございません!」
「まあっ。ジェラルド殿下に美しいと言われてしまいましたわ~!」

 頬を染めて喜ぶディアーヌとは対照的に、青ざめた男子生徒たちはぺこぺこと頭を下げがら退散していった。

「叔父上、来ておられたのですか。珍しいですね」
「うむ、たまにはな」

 そう言って、俺を促して歩き出した。
 毎年、課外学習の警護は騎士任せで顔を出したことはないはずなんだが……。どういう風の吹き回しだろう。
 何だか、きょろきょろと辺りを見回している様子だ。

 叔父上の足が止まる。
 その視線の先に、気だるげに寝そべっている一人の女性がいた。
 
 シャンタル殿だ。
 大胆に開いた胸元に、ぴっちりとして身体の線を強調するような上着。下履きは股辺りまでしかなく、白い腿に目が吸い寄せられる。

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。
 いやいや、何を見とれているんだ俺は。
 あんな格好、目の保養というよりもはや目の毒じゃないか。
 それに俺には、アニエスという愛する人がいる。

「ほほう……。良い身体ナイスバディなのは分かっていたが、これほどとは」

 うわぁ。叔父上がすっっっっごくイヤらしい顔をしている……。

 呆気に取られる俺を置いて、叔父上はすたすたとシャンタル殿へ近寄っていった。

「やあ、シャンタル殿。なかなか大胆な水着だな」
「ジェラルド殿下、来ていたのか。……この格好、まずかったか?アゼマの店で作ってもらったんだが」
「いいや、よく似合っているとも。しかし、その美しい肢体が他の男の目に映ることを考えると、心穏やかではいられないな」
「なに言ってんだ?」

 本当に、なに言ってんだアンタ。

 品位のある行いとか言っといて、自分が風紀を乱しているじゃないか。
 はっ。
 もしや、課外学習にわざわざ足を運んだのも、彼女が目的か!?
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