123 / 139
第5章 本当の気持ち
第5話
しおりを挟む「……起きてます」
「入ってもいい?」
「はい」
握り締めたせいで皺になってしまった着流しをパン、と叩いて伸ばしながら返事をすれば、からりと開いた襖の先には、そうちゃんが立っていた。
「そうちゃんか」
「璃桜、大丈夫?」
「うん、今、何時ごろ?」
「お昼。お腹すいたでしょ?」
そう言って差し出されたお盆には、おにぎりが4つ。
見た瞬間に、口の中に唾液がたまり、ぐぅ、とお腹が鳴る。
「……ははっ、璃桜の身体は正直だね」
「何それ! 着替えるから待ってて!」
羞恥で真っ赤に染まっているだろう頬を隠すために、そうちゃんを廊下に追い出し、ぱたん、と襖を閉めた。
「ごゆっくり~」
お腹が鳴ったのが恥ずかしすぎて、その声を無視し、着流しに着替える。
「おまたせ」
着替え終わって、襖を開いて廊下に出れば、そうちゃんは既に縁側の端に座り込み、おにぎりを手に持ってぱくついていた。
「璃桜、これ食べたら大和屋に来いって。今日は総出で片づけだって」
「はーい」
隣に腰かけ、もぐもぐとおにぎりを食べる。少ししょっぱい。
もぐもぐ。
……前言撤回、かなりしょっぱい。
「しょっぱいね」
そう言って隣に座るそうちゃんを見上げれば、眉を下げて申し訳なさそうに笑った。
「ごめん」
「え」
「誰もいないから俺が握った」
「……あ、そうなの、ありがと」
むしろごめんと謝ったら、何で謝るの、と笑われた。
「昔みたいだねぇ」
「そうだね」
「俺、璃桜とこんな風にまた一緒に二人でご飯食べるとか、もう二度と出来ないんだろうなって思ってた」
そう言ってくすりと笑いあうそうちゃんと私の前髪を、夏の風が揺らして通り過ぎていく。
そうちゃんとの思い出話は尽きることがない。
「一緒にご飯作ったよね、母の日とか」
「そうだねぇ、何が一番楽しかった?」
「うーん、私は、」
「あっ、待って、せーので言おう、せーの」
「ハンバーグ!」
「オムライス!」
見事にハモるはずだった私たちの声はバラバラで、だけど、それですら懐かしい。
「いつかまた、作りたいね」
「……そうだね」
優しい笑顔で笑う貴方に、聞きたいことがあった。
さっきの夢の中の話。あれは、私の妄想なのか、それとも、真実なのか。そうちゃんに聞けば、真実がわかると、そう思った。
だけど、平成の事を懐かしそうに思い出して笑う貴方に、そんな話をすることはできなかった。
だから、ただひたすらに、おにぎりに夢中になっているふりをした。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。
朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。
しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。
向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。
終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
愛玩犬は、銀狼に愛される
きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。
そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。
呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…
single tear drop
ななもりあや
BL
兄だと信じていたひとに裏切られた未知。
それから3年後。
たった一人で息子の一太を育てている未知は、ある日、ヤクザの卯月遥琉と出会う。
素敵な表紙絵は絵師の佐藤さとさ様に描いていただきました。
一度はチャレンジしたかったBL大賞に思いきって挑戦してみようと思います。
よろしくお願いします
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
迅英の後悔ルート
いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。
この話だけでは多分よく分からないと思います。
悪役令嬢に転生しましたが、破滅フラグが立ちおわっているので足掻きまくったら魔王になって乙女ゲーを間近で見る事になりました。
幌須 慶治
ファンタジー
勇者以外は魔王を討伐できない世界。
その世界で貴族の令嬢が好みの男の子を育成して、魔王を倒す手助けをする形で絆を深めて結ばれる乙女ゲー。
ブレイバーラバーズ、通称ブレラバ。
最終目標は魔王を倒し、聖女と勇者として世界を平和に治めることである。
そしてこのゲームでは自分以外にも勇者を手助けする公爵令嬢がいる。
その令嬢は自分の選んだ男子こそが魔王を倒すと自負し、他の令嬢は引き立て役、自分よりも目立つ組には制裁として数々のエゲツない事をしかけてくる。
それを掻い潜り、魔王を倒すと、その後は反逆者として罰せられるというのがこの令嬢の運命である。
そんな世界に一人の男の魂が流れ着くが……
「なんで悪役令嬢で悪の根源ルートに入った後なんだよおおおおおおお!!!」
これは死亡フラグを建て終わった後の世界を生き抜く為に必死に足掻いた末の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる