ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第5章 本当の気持ち

第5話

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「……起きてます」

「入ってもいい?」

「はい」



握り締めたせいで皺になってしまった着流しをパン、と叩いて伸ばしながら返事をすれば、からりと開いた襖の先には、そうちゃんが立っていた。



「そうちゃんか」

「璃桜、大丈夫?」

「うん、今、何時ごろ?」

「お昼。お腹すいたでしょ?」



そう言って差し出されたお盆には、おにぎりが4つ。

見た瞬間に、口の中に唾液がたまり、ぐぅ、とお腹が鳴る。



「……ははっ、璃桜の身体は正直だね」

「何それ! 着替えるから待ってて!」



羞恥で真っ赤に染まっているだろう頬を隠すために、そうちゃんを廊下に追い出し、ぱたん、と襖を閉めた。



「ごゆっくり~」



お腹が鳴ったのが恥ずかしすぎて、その声を無視し、着流しに着替える。



「おまたせ」



着替え終わって、襖を開いて廊下に出れば、そうちゃんは既に縁側の端に座り込み、おにぎりを手に持ってぱくついていた。



「璃桜、これ食べたら大和屋に来いって。今日は総出で片づけだって」

「はーい」



隣に腰かけ、もぐもぐとおにぎりを食べる。少ししょっぱい。

もぐもぐ。

……前言撤回、かなりしょっぱい。




「しょっぱいね」



そう言って隣に座るそうちゃんを見上げれば、眉を下げて申し訳なさそうに笑った。



「ごめん」

「え」

「誰もいないから俺が握った」

「……あ、そうなの、ありがと」



むしろごめんと謝ったら、何で謝るの、と笑われた。



「昔みたいだねぇ」

「そうだね」

「俺、璃桜とこんな風にまた一緒に二人でご飯食べるとか、もう二度と出来ないんだろうなって思ってた」



そう言ってくすりと笑いあうそうちゃんと私の前髪を、夏の風が揺らして通り過ぎていく。

そうちゃんとの思い出話は尽きることがない。



「一緒にご飯作ったよね、母の日とか」

「そうだねぇ、何が一番楽しかった?」

「うーん、私は、」

「あっ、待って、せーので言おう、せーの」

「ハンバーグ!」

「オムライス!」



見事にハモるはずだった私たちの声はバラバラで、だけど、それですら懐かしい。



「いつかまた、作りたいね」

「……そうだね」



優しい笑顔で笑う貴方に、聞きたいことがあった。

さっきの夢の中の話。あれは、私の妄想なのか、それとも、真実なのか。そうちゃんに聞けば、真実がわかると、そう思った。

だけど、平成の事を懐かしそうに思い出して笑う貴方に、そんな話をすることはできなかった。

だから、ただひたすらに、おにぎりに夢中になっているふりをした。




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