ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第39話

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「璃桜! 大丈夫!?」



尋ねてくるその顔を見上げれば、受け止めてくれたのは、隊服に身を包んだそうちゃんだった。



「っ、大丈夫」

そう答えれば、口の中で、鉄の味がした。

そうちゃんの腕を借りずに立っていることすら、厳しかった。



「私のっ、」



――問いにも答えてください。

そう言おうとしたが、声が出なかった。煙が喉を刺激して、ゴホゴホと咳き込んだ。



「お主は、金策さえどうにかすれば、焼き討ちは無くなると思ったのだろうが」



屋根の上に立ち上がった芹沢さんは、恐らく私が言いたいことを察したのだろう。

睨み続ける私を一瞥し、理由を言葉通り、屋根の上から落としてきた。



「一つ。大和屋は、生糸を買い占めておるのだ。それは、町の人たちにとって良くない事だ」



ハッとした。今の今まで、忘れていた。

そう、大和屋は、生糸の買い占めを行い、町の人たちに高値で売り付けていたのだ。

史実にも残っているのに、如何して。何故、私はこんな大切な事を忘れていたのだろうか。

ぐらりと歪んだ視界に、そうちゃんの腕を借りても立っていられなくて、しゃがみ込んだ。

そんな私の様子を見ても、芹沢さんは容赦なく言葉を落とし続ける。



「二つ。お梅を妾にしている菱屋への見せしめだ」

「……!?」



菱屋への、見せしめ。



「我は……お梅が、欲しい」



舌なめずりしながら、濁声を飛ばす。



「だから、菱屋が、我の要求を聞くようにしたまで」



つまり、菱屋さんが、文句言わずに芹沢さんにお梅さんを渡すように、ってこと?



「ふざけるな!!」



呆然としている私の傍で、怒鳴り声が上がった。

私が言ったのかと思う程に、傍で。



驚いて見上げれば、その怒号の主は、そうちゃんだった。




「お前なんかの私利私欲の為にっ、俺たちの大切な……、大切な居場所を、滅茶苦茶にするな!!」



大切な、居場所。

その言葉は、歳三が言っていた、それそのもの。

ぐっと拳を唇に当てた。そうでもしていなければ、感情が決壊しそうだった。



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