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第4章 歴史と現実
第21話
しおりを挟む「璃桜、いくよ」
「でも……!」
「いいから。ほら、為坊、おいで」
「そうちゃあん~」
べそをかきながら腕を伸ばしてそうちゃんに抱きかかえられた為坊は、その肩に顔をうずめてひっくひっくと声を零す。
その背をぽんぽんと優しく叩いてあやしながら、打って変わったいつもの声で、ウインクを飛ばした。
「じゃあ、また。次はただの客として来るから」
「……はぁ」
そんなそうちゃんの変わり様に唖然として庄兵衛も私たちを見送るしかなく。
私もはっと我に返ったのは、大和屋を出てから少ししてからだった。
「そうちゃん……ごめんなさい」
「え、如何して謝るの?」
きょとんと首をかしげてこちらに向きなおったそうちゃんの顔は、逆光で見ることができない。
「いや……だってもう少しで二人に危険な思いをさせてしまうところだった、から」
口にする言葉が唇から落ちていくと共に、じわりと不甲斐ない想いが瞳に膜を張る。
ああ、弱い。
したいことも一人じゃできない。
そんな想いを抱えながら、人は歩いていくしかないって、そんなの分かっている。
だけど、だけどね。
「………っ」
悔しいの。
一人じゃ何もできない、そう嘲笑われているようで。
「璃桜」
「う、」
「泣かないの」
そうちゃんから伸びてきた腕が、私の頬を伝う涙をぐっと拭う。
「璃桜は頑張ってる。だから悔しく思う必要なんて、無い」
「……知ってる」
「うん、璃桜はそういう子だよね。いつも必要以上に頑張って、苦しんで」
そうちゃんの柔らかな声と、泣き疲れて寝入った為坊のすやすやとした寝息が、耳を掠める。
「でもね、そんな璃桜のこと、見てくれている人はたくさんいる」
「………え」
「成長しようと頑張って足掻いている璃桜は、かっこいいよ」
「……そんな」
そんなことない。そうちゃんの方が、一万倍かっこいい。
そう呟いたら、ぎゅっと頬を抓られた。
「いひゃい」
「あのね、璃桜。何の為に、俺がいると思ってるの」
「え」
「悔しくて落ち込んでぐちゃぐちゃになっている璃桜のことを、立ち直らせるのが、俺の役目でしょ?」
「っ」
「大丈夫だから。璃桜はやりたいようにやればいいの。思ったことを思ったように、やり遂げればいいの」
――――――俺は、傍に居るから。
そう言って、ぽんと頭を撫でて。
ジワリ歪んだ瞳には。
陽かい光に照らされて、淡い笑みを見せるそうちゃんが、映った。
「……うん」
そう呟いて、ぐっと目元を拭う。
クリアになった視界に映った貴方は、悪戯っ子のような笑みで、為坊をくすぐった。
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