95 / 139
第4章 歴史と現実
第20話
しおりを挟む「さっさと、金を持って来いよ?」
そう吐き捨てるそうちゃんは、もう平成でのそうちゃんじゃない。
頭では納得していても、心がまだついていかないのが事実の弱い私は、ぐっと視線を下げて握りしめた拳を見た。
悔しい。
ただ、只管にその想いだけが、私に己の掌を爪が食い込むほどに握らせる。
「……為坊は」
「あ、奥でおやつを……」
「分かった」
そうちゃんの大きな背中に、先程とは違うゆるりとした殺気が満ちる。
そのさっきの向けられた先は、―――――――庄兵衛。
「為坊と金を持ってこい」
「ひっ」
その背に護られている私でさえも、ぞくりと背筋が凍ってしまいそうになる。
それ程に、冷徹な、本気の、殺気。
鋭利な刃のような感情を向けられて、息も絶え絶えになった庄兵衛は、自身が店に駆け込み、為坊と風呂敷包みを持って出てきた。
「………これでよろしいんで」
「ああ、世話になった」
すっと殺気を仕舞いこみ、風呂敷を受け取るそうちゃん。
為坊は何が起こったのか分からずに、ただ突っ立っているように見えたのだけれど、お菓子をもらえなかったのが不満だったようで、その着物の裾に縋って、庄兵衛を見上げた。
「お菓子はー?」
その刹那。
「うるさいこの餓鬼!」
「っ!?」
バシン! と音がして、為坊が店の入り口に転がった。
「………う、」
涙を溜めて頬を抑える為坊。
それを見たら、もう、――――限界だった。
「貴方は!!!!!!」
止めようとするそうちゃんの手を振りほどき、庄兵衛に詰め寄る。
「貴方は、如何して――――如何して、そんなことができるの!?」
さっきまで笑ってたじゃない。
子どもが好きって、言ってたじゃない。
私にも、微笑んでくれて、凄くいい人だったじゃない。
如何して、人はここまで、――――変わるのか。
違う。
こうやって、人を変えるのは―――――――何?
何が、此処まで、変えさせてしまうの?
ふーっと威嚇でも始めようかと思った途端、そうちゃんに腕を引かれた。
その強さで、はっと我に返る。
くるりと振り向けば、眉を下げたいつも通りの貴方が、私を強い眼差しで見ていた。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
笑う死霊家臣団 (別名義、別作品で時代小説新人賞最終選考落選歴あり)
牛馬走
歴史・時代
戦国の世、小領主の子であった柏木市右衛門源藤(かしわぎいちえもんもとひさ)は初陣で父、重臣が敵方に皆殺しにされてしまう――が、このとき、陰陽師の蘆屋道明(あしやどうめい)が戦場に満ちる瘴気を利用し、死んだ弟を甦らせようと秘術、泰山府君祭を行っていた。若い市右衛門を残して死んだことを無念に思った重臣たちが、道明の弟の魂を押しのけ死霊となってこの世へと戻ってくる。戦場を逃れるも落ち武者狩りに遭っていた市右衛門を彼らは救った……
灰墟になった地方都市でペストコントロールやってます 世界に必要な3つのこと (仮)
@taka29
ライト文芸
発症すると深層心理のエネルギーが異形に変じて野放図に暴れ回る奇病、その世界的な大流行から20年。物語は北陸のとある地方都市から始まる。
桔梗の花咲く庭
岡智 みみか
歴史・時代
家の都合が優先される結婚において、理想なんてものは、あるわけないと分かってた。そんなものに夢見たことはない。だから恋などするものではないと、自分に言い聞かせてきた。叶う恋などないのなら、しなければいい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
とある日
だるまさんは転ばない
ライト文芸
さまざまなジャンルが織り交ざる日常系の短編集をお届けします。青春の甘酸っぱさや、日常の何気ない幸せ、ほのぼのとした温かさ、そして時折くすっと笑えるコメディー要素まで幅広く書いていきたいと思ってます。
読み進めるごとに、身近な出来事が楽しくなるように。そして心温まるひとときを提供できるように、忙しい日々の隙間時間にほっと一息付けるようなそんな物語を書いていきたいと思います。
読んで見るまでジャンルがわからないようタイトルにジャンルに記載はしてません。
皆さんが普段読まないジャンルを好きになってもらえると嬉しいです。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
シャハルとハルシヤ
テジリ
ライト文芸
①その連邦国家では、未だかつて正式な女性首長は存在しなかった――架空の途上国を舞台に、その不文律に抗う少女ソピリヤと、それを一番近くで支えるハルシヤ。彼等は何も知らぬまま、幸福な幼年時代を過ごす。しかしその裏では身近な悲劇が起ころうとしていた。
【幕間】深く傷つけられた魂を抱え、遠く故郷を離れたシャハル。辿り着いた先は、活動修道会・マルチノ会が運営する寄宿舎兼学校だった。そこでジョアン・マルチノと名を隠したシャハルは、愉快な仲間達と共に、つかの間の平穏を得る。
②ある先進国の、冬には雪けぶる辺鄙な田舎町――その町で唯一の民族料理店・ザキントス店主の娘イオニア・プラスティラスは、1人の留学生と出会う。彼の名はジョアン、かつてのシャハルが高校生にまで成長した姿だった。その頃スミドにて、ソピリヤとハルシヤは大事件に巻き込まれる。
③大学で文化人類学を専攻し、ドキュメンタリー作家サワ・マルチノとなったシャハルは、取材のため故郷を訪れる。ハルシヤの娘イレンカも、小学生ながらそれに参加する。
【外伝①】雪けぶる町で成長した、イオニアの娘イズミル。彼女の通う高校に現れた、生意気な留学生の後輩は、何故かよくちょっかいを仕掛けてきて――
【外伝②】永遠の夕焼けが続く白夜のさなか、シャハルは広場のカフェで過去に触れ、自身を慕うシャリムを突き放す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる