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第4章 歴史と現実
第3話
しおりを挟む次に目が覚めると。
初めに目に入ったのは、煙管を吹かしながら胡坐をかいて文机に向かっている歳三の後ろ姿。
がさがさと音を立てて起き上がれば、その音に反応してこちらを見た。
「起きたか」
「今、……何時」
「半時くらいしか経ってねぇよ」
そう言ってこちらに向き直り、座りなおす彼。
何かと思って働かない頭で見ていれば。
「佐伯のことなんだが……」
言いにくそうに言葉を切り出す歳三。
わざわざ気を使ってくれている様子を見ていたら、ああ、大事にされているな、なんて、また場違いの考えが浮かんでくる。
そんなバカげた考えを吹き飛ばすように、あっけらかんと、冗談のように言葉を落とす。
そうでもしないと、また。
先生。
思い出して、瞳が、涙の膜を張る。
「佐伯又三郎はね、私の、あの時代の、先生だった」
「……は……?」
「私のことを、……そうちゃんがいなくて、みんな消えて、何もかも如何でもよくなっていた時、………助けてくれた、人なの」
「……っ」
未来の、過去。
此処から考えれば、未来。
だけれども、私からしたら過去。
時間の概念って、何なのだろう。
「佐伯も、……未来から来た、ってことか?」
「……うん」
「………そう、か……」
それ以外言葉が見つからないかのように、眉根に皺を刻んで、じっと畳を見つめる歳三。
「……先生は、言ってた」
「……何を」
「……僕の誠は、“歴史は歴史通りに”、だって」
だから、愛次郎君は殺されたの。
あぐりも、死んだの。
「……私みたいにさ、歴史を変えようとしたら……時間軸が、壊れるんだって」
先生が乗り移ったように話し続ける私の肩に、おもむろに手を置いて貴方は、眉を下げる。
「………もう、待った、ついていけねぇ」
「……ね」
私も、何を言っているのかがわからない。
ダメなのかな。
みんなを護りたいと思っているだけなのに。
でも、それで死ぬ人が出てくる。
私が、未来を奪ってしまう人が。
そんなのって。
もう、何を信じればいいのかわからない。
虚ろな瞳で空を見つめていれば、歳三は、ひとつ心配げにため息を落として。
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