ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第2話

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「……う」



止まらない。

頬をすべる涙の粒は、止め処ない。



「……先生が、死んじゃった……!」

「先生、って……」

「私を、置いていった……!」



私の涙ながらの言葉に、歳三は、何かに気づいたように、はっとして。



「……璃桜は俺がみるから、おめぇらは仕事しろ」



未来に関係のあることだって、そう聡い貴方は、気づいたはず。

だから、人払いをする。



「……言われなくても、璃桜の口を開かせたの、ここ2日間で、土方さんだけなので」



心配げな表情のそうちゃん、平ちゃん。

左之さんに、新八さん。

そっと私に笑いかけて、部屋を出ていく。

その様子に、また顔がゆがんだのだろう。



「おめぇは、何も考えなくていい。よく頑張った」



その言葉とともに、与えられる熱。

力強い腕に、嗚咽が漏れる。

歳三。

としぞう。

トシゾウ。

何処に、いたの。

目の前の熱に縋りつく。



「大丈夫だ。俺がいる」

「う、ひっく、」

「俺は璃桜を置いてなんて行かねぇ」

「……っ、う」



ごめんなさい。

とめようと思ったの。

護りたいだけなの。

できなくて、ごめんなさい。

ごめんなさい。

嗚咽交じりのぐちゃぐちゃの独白に。



「……璃桜」



大丈夫、大丈夫と。

まるで過去にもそうしていたことがあるように。

私の頭を、撫で続ける。

どのくらい時間がたったのだろう。



「……落ち着いたか」

「……ひぐ」



泣きすぎて腫らした瞼と、重い頭。



「食え」



そう言って差し出されたのは、温かいお茶と、歳三の沢庵。

そっとお茶をすすれば、けほ、と咽る。

使っていなかった消化管をいきなり使ったから、身体が驚いて反応する。

だけど、胃に入ったお茶は、じんわりと解けていきそうなほど、温かくて。

自分の身体が、酷く冷たいことに、漸く気づいた。



「二日、なんも食ってねぇんだろ。悪かったな、傍にいてやれなくて」

「……どこに、いたの……」

「佐伯の件で、いろいろ溜まってたことを向こうで片づけてたんだ」

「………先生……」



ぽつりぽつりと交わされる言葉。

ふ、と歳三の掌の動きが止まったと思ったら、顔を覗き込まれた。

酷く、心配げな表情で。



「璃桜。もう、聞いても平気か」

「……うん」



ず、と鼻をすする。

もう大丈夫、貴方が戻ってきてくれたから。

貴方が私に世界を戻してくれたから。



「大丈夫じゃねぇだろ」

「わ」



呆れたようにそう言った彼に、布団にぱたりと倒される。



「もうちっと寝てろ」

「もうたくさん休んだよ」

「馬鹿言え、ずっと寝てねぇだろう」



ふわりと瞼を閉じるようにのせられた掌の熱で、ゆるりと眠気が訪れる。



「……ゆっくりしてろ」



その温かい言葉を最後にして、眠りに引き込まれていった。




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