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第3章 史実
第20話
しおりを挟む「璃桜」
呼ばれて顔をあげれば、そこには歳三。
「女子の事なんだが、……聞くか?」
「うん……」
真実は、何処にあるのか。
私が知っている史実は、佐々木愛次郎と八百屋の娘あぐりの惨殺。
文字で、ぺらりとした紙一枚に記された、その字面。
けれど、ここでは。
実際にことが起こっているから。
私は、それを知りたいと思う。
守りたかった。守れなかった。
だけど私は、まだ守りたい人がいる。
だから。
「………教えて」
涙は止まらないけれど。
声はかすれているけれど。
心は、決まった。
諦めたくないの。
諦めたら、いけないの。
1人でも多く、守ってみせる。
「……お鈴は、本当は八百屋の娘なんだと」
「…え」
「甘味処は分店で、そこの手伝いをしたら看板娘に成っちまって、そのせいでずっとそこにいただけなんだとよ」
「……何、それ…」
「本当の名は……」
そこで言葉を切り、ちらりと私を見据える歳三。
その漆黒の瞳には、いつもと違う光が見える。
その光の名は、………軽蔑か、恐怖か。
それとも、畏怖か。
「……もう、知ってるよな」
「………あぐり、でしょう…?」
「…………ああ」
結局、歴史は歴史通り。
何も変わらないの。
此処が現実で、生きている今だとしても。
私が知っている歴史のまま。
「ねぇ、歳三……?」
「……何だ」
「…………私が、怖い……?」
一瞬、空気が張り詰めた。
琥珀の眼が見つめた先にある、歳三の表情が、硬く強張っていた。
その瞬間、悟る。
ああ、私は、絶対に歳三の傍にずっといるなんて出来ないんだって。
だって、貴方にそんな顔をさせてしまう。
それなのに、貴方のために何もできない。
「……そう、よね。変なこと聞いてごめん」
へらり、と口角をあげた私に、歳三は、無理に鼻で笑って見せる。
「おめぇは馬鹿か、この歳三様に怖ぇもんなんかねぇよ」
「……馬鹿よ。馬鹿ついでにいいこと教えてあげる」
もう、泣かない。
皆を守るの。
例え自分の願いが叶わなくても。
自分の気持ちが、届くことがなくても。
皆を守ることができたなら、それで本望だから。
そう無理に自分に言い聞かせる。
そうちゃんを労咳になんてさせない。
平ちゃんを死なせない。
みんなみんな、いなくなってしまう未来なんて、私はいらない。
だから。
まずは、この事件を突破する。
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