ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第19話

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「………お鈴、ちゃん」



外傷は全くない。

けれど、もうこの世のものでは無い事が、見ているだけでわかった。



「どう、して」



やっぱり、呼吸が荒くなる。
ひゅうひゅうと音が鳴る。



「……璃桜、」

「如何して、死んで、しまったの…?」



お鈴ちゃんは、あぐりだったの?

くるくると変わる表情で私を笑わせてくれた、お鈴ちゃん。

今はもう、動かない。
そっと愛次郎くんに寄り添うように、瞳を閉じて。



「副長、ご報告が」

「……ああ」



話しかけられて、自分の仕事があるのに、心配げにちらりと私をみる歳三。

ぐっと拳を握って、へたり込んでしまいそうな自分を鼓舞する。



「大丈夫、だから」

「……無理、してねぇか」

「………」



お願いだから、今は優しくしないでほしい。

今そんな言葉をかけられたなら、きっと。

涙が、滲んで零れて止まらなくなるから。



「……大丈夫、よ」



聡い歳三は、私の気持ちを察したのか、ひとつぽん、と頭に手をのせてから、仕事に戻る。



「……お鈴ちゃん、愛次郎くん」



どうして二人を守ることができなかったのだろう。
歴史は変わったと思ったのに。

だけど。

……甘い。

心で、そう自分を戒める声がする。

歴史なんて、そうそう変わるものじゃない。

本気で変えたいと、そう願っていたのか?

願っていたかもしれない。祈っていたかもしれない。



だけれど。


お前は、何をした?

実際に、行動したのか?



「……」




答は、―――――――否。

何も、してない。

勝手に歴史が変わってくれることを願ってた、祈ってた。

そんなことで、歴史が変わるわけもない。

ああ、なんて、甘ったれた考え。



「結局私は、如何して此処にいるの……?」



守りたいと、本気で思った。

だけど、こんな私が、歴史を変えることなぞできるわけもない。

心の中で、自分自身をそう戒める声がする。

身の程知らずで、ただの欺瞞。
ぽたり、涙が頬を濡らす。

止まらない。
溢れだす。

哀しみでもなく、苦しみでもなく。

今の私を支配しているのは、
―――――悔しさ。

こんな時でも、自分の事しか考えられない、そんな自分に本気で嫌気がさす。



あまつさえ。
守りたい人のことが、浮かんでくる。

新撰組の皆のことが、浮かんでくるの。

犠牲者が目の前にいるっていうのに、もうすでに自分の思考は先を行く。

そんな自分が嫌い。

だけど、今は。
そんな自分を受け入れるしか、ないの。

だってそうでもしなければ、私が此処にいる存在意義が消えてしまう。

史実を知っている私がここにいるのは、皆と一緒に生活して、皆を守るためだと、そう思っているから。




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