34 / 139
第2章 大坂出張
第20話
しおりを挟むそしてそのまま、歩き続けて、少し経ったころ。
漸く涙腺の潤いも終わりを見せてきて、感情も落ち着いてきた。
「あのう」
「………何だ」
「ありがと、ございました………」
前を歩いていた齋藤さんの袖を掴んで、ぐずぐずと鼻をすすりながら、腫れぼったい目でお礼を言う。
そんな私をみて、彼は表情も変えず、一言。
「たまには、甘えてもいいんじゃないか」
「え、」
全く予期していない言葉に、俯いたまま目を見張る。
「……そんな璃桜も、悪くない」
更に加えて、そんな事を言われたことに、驚いてつい濡れた頬のまま顔をあげれば、目の前には綺麗な瞳と、凛とした眉。
「………」
「何だ」
あまりにも変わらないその綺麗な顔をじっと見つめていたら、そう言って、そのまま相変わらずの無表情を保ち続けるその様子に。
「ふ、は……っ」
つい、噴きだした。
何がそこまで面白いかなんて、分らないけど。
「ふ、くくく……」
「何故笑う」
沈むだけ沈んだ後だからか、笑いが止まらない。
「くっ……齋藤さん…面白過ぎ…………」
「うお! 璃桜!? どうした!」
私が声を立てて笑ったから、左之さんが漸く泣いていて距離が空いた私と齋藤さんに気が付いて、走ってくる。
「おおい、一!! 璃桜いじめてないだろな!?」
「そんなことするわけない」
「じゃあ、なんで璃桜が泣いてんだよ!?」
「なんでも、ないで、す」
涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげて、くしゃりと笑う。
「ありがとう、ございます」
ずっと、認められたくて。
1人、我武者羅に、頑張ってきた。
おじいちゃん、おばあちゃんが死んでしまってからは、支えてくれる人も、褒めてくれる人も、平成にはいなくて。
だからこそ、こうして、何かある度に悩んでしまう。
私がちっぽけなことはきっと変わりがないんだろう。
これからも、何回も、こうやって悩むのだろう。
それは、きっと。
偶然ではなく、必然。
絶対に、何回も、ぐちゃぐちゃになって、泣いて、辛くなって。
けど。
「何がだ」
「感謝されるようなこと、したか?」
きょとんとした顔でこっちをみる二人に、にこり笑顔が零れる。
―――私には、皆がいる。
甘えてもいい。
泣かないで。
笑っていて。
そう、望んでくれる、皆が。
お前は、強い。
そう、認めてくれる、皆が。
だから、悩むことさえ。
きっと自分に必要なことなんだって、そう思えるの。
だから。
いま、ここで生きているんだって。
そう、思える。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる