ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第2章 大坂出張

第20話

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そしてそのまま、歩き続けて、少し経ったころ。
漸く涙腺の潤いも終わりを見せてきて、感情も落ち着いてきた。



「あのう」

「………何だ」

「ありがと、ございました………」



前を歩いていた齋藤さんの袖を掴んで、ぐずぐずと鼻をすすりながら、腫れぼったい目でお礼を言う。
そんな私をみて、彼は表情も変えず、一言。



「たまには、甘えてもいいんじゃないか」

「え、」



全く予期していない言葉に、俯いたまま目を見張る。



「……そんな璃桜も、悪くない」



更に加えて、そんな事を言われたことに、驚いてつい濡れた頬のまま顔をあげれば、目の前には綺麗な瞳と、凛とした眉。



「………」

「何だ」



あまりにも変わらないその綺麗な顔をじっと見つめていたら、そう言って、そのまま相変わらずの無表情を保ち続けるその様子に。



「ふ、は……っ」



つい、噴きだした。

何がそこまで面白いかなんて、分らないけど。



「ふ、くくく……」

「何故笑う」



沈むだけ沈んだ後だからか、笑いが止まらない。



「くっ……齋藤さん…面白過ぎ…………」

「うお! 璃桜!? どうした!」



私が声を立てて笑ったから、左之さんが漸く泣いていて距離が空いた私と齋藤さんに気が付いて、走ってくる。



「おおい、一!! 璃桜いじめてないだろな!?」

「そんなことするわけない」

「じゃあ、なんで璃桜が泣いてんだよ!?」

「なんでも、ないで、す」



涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげて、くしゃりと笑う。



「ありがとう、ございます」



ずっと、認められたくて。
1人、我武者羅に、頑張ってきた。

おじいちゃん、おばあちゃんが死んでしまってからは、支えてくれる人も、褒めてくれる人も、平成にはいなくて。
だからこそ、こうして、何かある度に悩んでしまう。

私がちっぽけなことはきっと変わりがないんだろう。
これからも、何回も、こうやって悩むのだろう。

それは、きっと。
偶然ではなく、必然。

絶対に、何回も、ぐちゃぐちゃになって、泣いて、辛くなって。

けど。



「何がだ」

「感謝されるようなこと、したか?」



きょとんとした顔でこっちをみる二人に、にこり笑顔が零れる。

―――私には、皆がいる。

甘えてもいい。

泣かないで。
笑っていて。

そう、望んでくれる、皆が。

お前は、強い。

そう、認めてくれる、皆が。



だから、悩むことさえ。

きっと自分に必要なことなんだって、そう思えるの。



だから。

いま、ここで生きているんだって。

そう、思える。




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