ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第2章 大坂出張

第18話

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「お主の志は、何だ?」

「こころ、ざし………?」



目線をさまよわせて、突如言われたことに戸惑っていれば、強く名を呼ばれた。



「沖田璃桜」



その芯のある声に、びくりと体が、反応した。



「揺らぐな」



瞬間、周りに人がいなくなったように感じた。

倒れている力士たちも、それの片付けに追われているみんなの声も、喧騒が何もかも遠ざかって。

きぃん、と直接頭の中に芹沢さんの声が響いてきた。



「もっと、楽しませろ」

「………え?」

「お主の志で、もっと我を楽しませてはくれまいか」



何を言っているか、よくわからない。
目を見張った私に、くく、と小さく唇で笑った彼は。

徐に、私との距離を縮めて。



「我も、近々お主の願いを聞いてやろう」



楽しみに、しておれ。

そう、この耳元に囁きを落として。

ふい、と私なんかに興味をなくしたかのように周りに指示だしを始めた。

芹沢さんに話しかけられているその間、ずっと動けずに固まっていた。

頭がおかしくなりそうで、気を緩めれば、生理的に涙腺が崩壊しそうで。

これこそが、恐怖。

そう、認識するにしたがって、ぞくりと肌が粟立った。

平成では絶対に経験することなかった、気の重み。

芹沢鴨、その人の、その人生の、その思いの、重み。

なんて、硬くて、強い。

それに比べて。

私は、なんて、
ちっぽけなのだろう。

その思いは、屯所に戻るときまで、もやもやと胸の内を燻って消えてはくれずに。

帰りの道中でも、無口になってしまうことが多かったらしい。



「………」

「いやあ、まさか、璃桜だったとはな」



この俺でも、全くわかんなかったぜ!と、左之さんが、黙り込んで鬱々としている私に、陽気に話しかけてくれる。



「まぁ、私たち、似てますからね」

「でもよ、璃桜おめぇちいせぇだろ? 総司にくらべると」

「確かに。でも、総司はひょろひょろしてるからな」

「猫背だしな」



そう言って肩を丸めて、そうちゃんの真似をして、その場の雰囲気を変えてくれる。

笑い声が、飛び交っている。



「………っ」



少し歩みを遅くしてみれば、前を進む彼らの空気感が、顕著に見えて。

なんて、優しくて強い人たち。

みんな、始めは辛かったこともあるだろう。

人を、殺めること。

そして、その心の内。

それは、私なんかが慮っていいものではないと思う。

けれど、こうして、私を笑わせようとしてくれる。

近藤さんも、左之さんも、新八さんも、みんな。

そして何より、彼ら自身が、笑顔でいる。

それは、どれほどの努力の上に成り立っているものなのだろうか。

そこまで思考を巡らせて、無意識のうちに、つと息が零れた。

なんて、強くて、素敵なのか。

そう、感じたから。

それとは相反する自分に、ほとほと嫌気がさす。

ただ、何かにすねている子どもの様に、こん、と足元の小石を蹴飛ばす。

何の罪もない小石は、あっけなく、道の端っこまで転がって。

ぽちゃん、と水辺に落ちる。

ふと、視線を感じて、横を向いた。



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