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第2章 大坂出張
第10話
しおりを挟むその声に応えるように、野太い声が隣からした。
「わはは、いいじゃないか。沖田もまだまだ若いんだ。今のうちに目を肥やしておかなければ。な、平山?」
「芹沢局長、その通りです」
腰ぎんちゃくの平山さんによいしょしてもらいながら、にやりと笑って私を見据える芹沢さん。
「……な?沖田」
「……っ、はい……」
その瞳は、何故か。
子どものように、澄んでいた。
その変貌ぶりに、逆に恐ろしさを感じる。
いつもなら、瞼がかぶさって重たい光を放っているというのに。
いまは、まるで純粋。
ただ、楽しそうに笑っていて。
「……なんなの…」
芹沢さんが、分らない。
もう、本当に。
史実通りなのか、そうじゃないのか。
確かに、ひたすら自分の力を見せつけるように狼藉を働いていることは事実。
今だって、隊費を使って自分は道楽しているわけで。
けれど。
それには、何か理由があるんじゃないのかと、澄んだ瞳を見るたびに、そう心のどこかで感じてしまう。
勿論、その感情に確固たる根拠なんてものは存在しないし、そんな事を考えてみても、心の中を覗けるわけではないから、ひたすら混乱が回るだけだけれど。
混乱が生まれると同時に、如何してか。
「…………」
彼に、興味を持った。
そう、ひたすらに。
ただ、興味を持った。
そして、四半時くらいたっただろうか。
船が丁度鍋島川岸に到着したところだった。
「うぅ」
となりから聞こえてくるうめき声のような声に、はっと其方を見やれば。
「え、ちょ、さ……一くん?」
お腹を抱えてうずくまるように丸くなる、齋藤さんの姿が。
「ど、どうしたの」
「……」
様子を見る限り、お腹が痛いらしい。
「おい、どうした」
私の声に皆も齋藤さんの異変に気付いた。
「大丈夫?」
「これは……ちょっと酷い」
額には冷や汗のように、びっしりと水滴。
切れ切れに痛みを訴えるあたり、声も出ないくらいの痛みのよう。
「如何しよう……」
お腹が痛くなるなんて、薬でもあればいいけれど、こんな状態じゃ何もできない。
そもそも、原因がわからないから、何もしてあげられない。
おろおろと周りの人たちと慌てていたら、野太い声が。
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