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九月、出逢った日の事、文化祭
第5話
しおりを挟むそんな感情を抱えたまま、迎えた文化祭。
俺はいつも通り、俺たちの巣窟でゴロゴロとソファに寝そべって、スマホを弄っていた。
はぐみは、今はここにはいない。生徒会の仕事に忙殺されているのだろう。
別に彼女に四六時中一緒に居て欲しいとは思わない。俺は、彼女が居てくれればそれでいい。この喪失感を少しでも紛らわせることが出来るなら、それで。
紛い物、とはよく言ったものだよな、と思う。文字通り、はぐみは、育美の紛い物。
脳裏でそう思って、自分が屑だなぁ、と思った。
同時に、画面の中のキャラクターが敵にやられて、GAMEOVERの文字が躍った。
「はは」
俺の人生はとっくにゲームオーバーだよ、と思って乾いた笑いが零れた。育美が死んだことが、俺のHPを全部削って、0にしてしまったのだから。
復活のタネも草も持っていない。俺にあるのはこの肩書だけ。
けれど、彼女の呪いが、このゲームをリセットすることを許してはくれない。彼女がすきだと言ってくれた自分を、自分の手で終わらせることは出来ないのだ。
だから、HPが0のまま、誰かに操られるように人生を送っている。
それ程までに、彼女に囚われている。やっぱり俺は、誰かに踏み台にされて生きるほうが向いているのかもしれないな、と思ってもう一度小さく笑った。
そんな事を考えながら、もう一度ゲームをリロードした時。バタバタバタ、と近づいてくる足音がした。酷く焦ったようなその音に、くすり、と先ほどとは違った輪郭の音が溢れる。
「すぐり! お待たせ、」
そう言って息を切らせながらドアを開いたのは、はぐみ。その腕には、サイダーの缶が二つ、抱き締められていた。ふはっと笑いが零れて、そうして、何故か泣きそうになった。
誤魔化す様に咳払いをして、ゆるりと立ち上がる。
「遅いよ、はぐ」
「ごめん、明日の会議が長引いちゃって……だから、はい、これ」
そう言ってサイダーの缶を差し出してくる。それを受け取ろうと手を伸ばして、そうして、途中で思い直して、彼女の腕を掴んだ。ぐっと引っ張ってソファに押し倒す。
はぐみの黒髪が広がるのと同時に、カン、と二つのアルミニウムが落下した。後を追う様に、舞い散った埃が落ちて行った。
「すぐ、り?」
「遅刻したから、お仕置き」
「っ」
文化祭特有のカラフルなTシャツに手を掛けて脱がす。驚いたように固まっているはぐみは、徐々に赤く染まっていく。スカートのホックを外した時、彼女の小さな手のひらが俺の指に重なった。
「今日、……走り回って、汗かいたから、」
「……だから、何?」
「……っ、」
上目遣いに睨みつけられて、どくん、と心が揺れる。
「言わないなら、脱がすよ」
そう言って、そのままスカートを取り去った。下着だけになった彼女の身体は相変わらず酷く綺麗で、美しい。
「意地悪、」
「いつもの事でしょ」
「……悪魔」
「何、今日はけっこう強気で言うじゃん、はぐ」
そう言ってその頤をとって見せれば、途端に押し黙る。何かを言い返そうとして、けれど、何も言えずに、ただ涙だけが滲んでいく彼女の瞳に、愉悦の感情が満ちる。
「はぐ、可愛い」
「っ」
感情に動かされるままに、口づけを落とす。
偶然に彼女の頬に触れた指先に、じわりと灯った熱。何度も何度も、彼女の頬を撫でて、そうして、その熱を感じる。
それがもっと欲しくて、彼女に口づけを繰り返す。小さく零れた甘い声が、更に欲望を駆り立てる。
それは、まるで、スキナーのネズミだった。
偶然知った紛い物の彼女の熱を望んで、そうして、生きている感覚を得たかった。だから俺は、繰り返し、彼女の輪郭をなぞり、彼女の唇に噛み付くのだ。
そうしていれば、生きているだけで痛いこの胸の傷が、少しだけ、塞がってくれるような気がして、俺は今日も、馬鹿の一つ覚えを実践するネズミの様に、彼女を愛撫する。
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