紅井すぐりと桑野はぐみ

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
55 / 90
九月、消えたい、過去

第5話

しおりを挟む



 それからの1年間、俺たちは何度も夜を共にした。その度にお互いに傷つきながら、その傷を舐め合っていた。

 決してこの時間は永遠ではないと知っていた。それでも二人で居られる事に安堵して、それを愛と呼んでいた。

 二人の関係は、吹けば壊れてしまう程にちっぽけで、同時にそれは儚く酷く綺麗だった。

 両親は俺が育美を抱いていればそれで満足な様で、他に何をしようとも干渉してこなかった。

 だから、俺は、事あるごとに育美を連れ出した。共に町中を歩くだけで何だかふわふわとした気持ちになった。

 その感情の名前を、何と呼ぶのか、俺はまだ知らなかった。



 夏休みが終わって学校が始まったある日、いつも通りに義務的行為を終えた後の布団の中で、育美は言った。



「……あーあ、この時間が、ずっと続けばいいのに」



 宵闇に浮かんだ小さなその台詞に、何て言っていいか分からなくて、ただ愛おしくて、その小さな身体を抱き締める。膨らみかけたその胸に顔を埋めれば、ふわふわと髪を撫でられる。



「育美」



 名を、呼んだ。この時間が、永遠に続けばいいと思っていたのは同じだった。



「何、すぐり」

「……続くよ」



 なんの根拠もなかった。けれど、それが戯言だったとしても、どうしても、俺は育美と一緒に居たかった。



「……そうだね、すぐりがそう言うなら続くのかも」



 そう言って俺の頭の上で、育美は笑う。それが欺瞞だと知っていて、その戯言に付き合ってくれる。



「ねぇ、すぐり」

「何」

「私が、死んだら、……一緒に死んでくれる?」



 ぞくり、と肌が粟立った。

 

「……何それ、冗談?」

「んー、冗句ジョーク?」

「……一緒じゃん」



 怖かった。
 彼女が居なくなってしまう気がした。

 ぎゅっと彼女に回した腕に力を込めた。育美はくすりとひとつ笑って「それで?」と俺の答えを促した。



「……死なない。俺は、……育美に嫌われるまで、死なない」

「あら、そう。じゃあ、私が死ぬときは、貴方に嫌いって言わなくちゃならないのね」



 小さくけらけらと笑いながら落とされたそれは、彼女の精一杯の戯言だった。

 その哀しい声の輪郭に、俺は何も言えなくて、ただひたすらに育美の身体を抱き締めていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...