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九月、消えたい、過去
第5話
しおりを挟むそれからの1年間、俺たちは何度も夜を共にした。その度にお互いに傷つきながら、その傷を舐め合っていた。
決してこの時間は永遠ではないと知っていた。それでも二人で居られる事に安堵して、それを愛と呼んでいた。
二人の関係は、吹けば壊れてしまう程にちっぽけで、同時にそれは儚く酷く綺麗だった。
両親は俺が育美を抱いていればそれで満足な様で、他に何をしようとも干渉してこなかった。
だから、俺は、事あるごとに育美を連れ出した。共に町中を歩くだけで何だかふわふわとした気持ちになった。
その感情の名前を、何と呼ぶのか、俺はまだ知らなかった。
夏休みが終わって学校が始まったある日、いつも通りに義務的行為を終えた後の布団の中で、育美は言った。
「……あーあ、この時間が、ずっと続けばいいのに」
宵闇に浮かんだ小さなその台詞に、何て言っていいか分からなくて、ただ愛おしくて、その小さな身体を抱き締める。膨らみかけたその胸に顔を埋めれば、ふわふわと髪を撫でられる。
「育美」
名を、呼んだ。この時間が、永遠に続けばいいと思っていたのは同じだった。
「何、すぐり」
「……続くよ」
なんの根拠もなかった。けれど、それが戯言だったとしても、どうしても、俺は育美と一緒に居たかった。
「……そうだね、すぐりがそう言うなら続くのかも」
そう言って俺の頭の上で、育美は笑う。それが欺瞞だと知っていて、その戯言に付き合ってくれる。
「ねぇ、すぐり」
「何」
「私が、死んだら、……一緒に死んでくれる?」
ぞくり、と肌が粟立った。
「……何それ、冗談?」
「んー、冗句?」
「……一緒じゃん」
怖かった。
彼女が居なくなってしまう気がした。
ぎゅっと彼女に回した腕に力を込めた。育美はくすりとひとつ笑って「それで?」と俺の答えを促した。
「……死なない。俺は、……育美に嫌われるまで、死なない」
「あら、そう。じゃあ、私が死ぬときは、貴方に嫌いって言わなくちゃならないのね」
小さくけらけらと笑いながら落とされたそれは、彼女の精一杯の戯言だった。
その哀しい声の輪郭に、俺は何も言えなくて、ただひたすらに育美の身体を抱き締めていた。
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