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七月、創造主、不正解
第3話
しおりを挟む「何でもいいよ、はぐが一緒に居てくれるなら」
そう言って彼はあっという間に準備を済ませ、ドアへと向かっていく。慌てて鞄に物を詰め込んで、その背を追う。紳士らしく開いてくれた扉を潜り抜けようとして、ハッと我に返った。
いやいやいや、まだ電車も動いてるし、なんならまだ薄明るいし、普通に帰れるじゃない。
危ない、危うく口車にのせられるところだったわ。
「はぐ、行くよ」
「……いや、私、帰るよ?」
「……は?」
恐る恐るそう口にしてみれば、途端声色が凍る。空気までも巻き込んで冷徹な雰囲気を纏ったすぐりに、やばい、と思った。こうなった彼は手が付けられない。
「何で、帰るとか言うの?」
「いや、ごめ、」
「もういいよ、勝手に連れてくから」
口に出しかけた謝罪は喰い気味に遮られる。ぎゅっと掴まれた右腕に痛みを感じて顔を歪める。けれど不機嫌な彼はそんなの気にする訳もなく、私の事を引きずるように歩いていく。
慌てて置いて行かれないように追いかけるけれど、足が縺れて、バランスを崩す。
「っ」
「……気を付けてよ、怪我したらどうすんの」
そう言って冷たい目で見下ろす彼は先程までとは別人の様に尖っていて。はぁ、と面倒くさそうな溜息を零してふとかがんだと思ったら、私の膝の裏にその大きな手を差し入れる。
そのまま抱えられた。感じるのは膝裏と背中の熱、そして、ドクリと脈打つ自分の心臓の鼓動。すぐりの甘い匂いが嗅覚を刺激して、ぞくりとした。
「や、すぐり、下ろして……っ」
「嫌だ」
慌てて足をじたばたするも、抱えている本人はどこ吹く風で階段を降り始める。
勿論この部活棟は他の部活動の部室もある。下校時刻が過ぎたとはいえ、まだ残っている生徒たちもちらほら居る。ほら、現に、気まずそうにこちらから目を背けて階段を上がってくるスポーツウェアの女の子たちとすれ違う。
「ねぇ、お願い、歩くから下ろして」
小さく懇願するも、冷たい表情で一蹴する。
「アンタ、歩くの遅いし帰るとか言うから、このまま外まで行く」
「っ!?」
「見せつけようね、はぐ」
そう言ってカツンカツンと階段を下る。私に出来る事は何も無かった。ただ真っ赤になっているだろう顔を見られないように、ずっと俯いていた。
「ほら、外に出るよ」
わざわざ羞恥を煽る様に、すぐりは冷徹に微笑みながら、私に向かってそう言葉を落とす。
「……意地悪……」
「何? これは、はぐの所為でしょ? 帰るとか言うからだよ」
悪魔は部活棟の入り口を開いて蒸し暑い空気に一歩を踏み出す。観念してせめてもの抵抗で目を瞑った。
それが裏目に出たのか、無駄に聴覚が研ぎ澄まされる。コソコソと囁かれている言葉が、ぎゅっと目を瞑っている私の元へ届いて喧騒になる。
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