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六月、世界との境界、選挙
第4話
しおりを挟むすぐりの文字通りの愛撫が終わった後、着せ替え人形の様に元通りに制服を着せられた。自分で着られるわよ、と言ったけれど、これが楽しいんだから獲らないでと拒否された。
「はい、終わり」
几帳面に三角形になったネクタイの結び目をぽん、とひとつ叩いて、すぐりは私から少しだけ離れる。
自由になった両手で身体を支えて、ずるり、と起き上がった。身体中が気怠くて、そして熱っぽい。
はぁ、と溜息を零せば、目の前の蜂蜜色の髪の毛が揺れた。
「……はぐ、可愛いね」
「私、一応先輩なんだけど」
「ぷっ、……今更そんな事言う?」
全部見せた癖に、とにやりと笑いながら私の髪を梳く。彼の指に私の黒髪が絡まったのを目に入れた時、どくりと心臓が震えた。
その理由を探してはいけない気がして、見なかったことにした。代わりに脳裏に浮かんだひとつの質問を、目の前でにこにこ笑う満足げな後輩に投げつける。
「貴方、何で授業中に歩き回ってる訳?」
「え、もしかして、……はぐ、本当に知らない? 俺の事」
「知らない」
キーンコーンカーンコーンと授業終了のチャイムが響く。その音を耳にしながら、目の前のすぐりが驚いたように笑うのを見ていた。見開かれた目がすぐに弛んで三日月型になる。その柔らかな色に、ふと、雨空に差し込む陽の光を思い出した。
「そっかぁ……、何だ、知らなかったのか」
「……だから、何を」
「……俺、この学校にめっちゃ資金援助してる会社の御曹司」
お・ん・ぞ・う・し、と某キャッチコピーを真似した彼は乾いた音で笑って、その指をつと伸ばし、私の唇に触れた。
その感触はまるで羽。指をそのままにして、そして、ゆるりと笑う。
「俺に媚びてくるやつばっかだからさ、はぐは知らなかったんだって、ビックリした」
授業中に闊歩することも、教室から他の生徒を連れ出すことも、黙認。その謎が漸く解けて、ひとりでなるほど、と納得した。だから担任はあんな表情で私を見たのか。
私が感じた感覚は当たっていた。まぁ仕方ないわ、自分の方が可愛いに決まっている。先生も人間だものね。
そう言えば、とふと思う。あの日彼にこっぴどく振られた女の子は、その事を知っていたのだろうか。
「はぐ、生徒会役員って、どうやって選出するの」
そんな事を考えていたら、いきなり突拍子もない質問が飛んできた。驚いて目を2,3回瞬く。何度瞬きしても、彼はそこで首を傾げていた。
「……選挙があるから、そこで演説して、全校生徒で選挙するけれど」
それが何? と訊こうとした唇は、そっと彼のそれによって塞がれた。ちゅ、と小さなリップ音を立てて、大切そうに舐められた私の唇。
自分がキスをされたと気づいて、そして、頬にカッと血が上った。
「な、何す、」
「あははー、無防備なのがいけないんだよ、はぐ」
「……っ」
「何だろー、はぐってさぁ、全世界に興味ありません、って顔してる癖にこういう時に素が出るよねぇ」
それがたまんないんだけど、と小さく零して、時計を見上げる。そして私の腕を優しく掴んで、ベッドの上から保健室の床に揃えてある上履きへ誘導した。
「放課後、生徒会室案内して。また教室迎えに行くから」
「は?」
「……勝手に帰ったら許さないからね」
そういって妖艶に笑む悪魔は、カチャン、と音を立てて保健室の鍵を解錠して、私の前から姿を消した。
途端、酷い倦怠感が戻ってきてしまう。授業に戻らなきゃ。そう思いながらも、身体は正直にさっきまで縛り付けられていたベッドにもう一度腰かけて、そうして、気が付いたら眠っていた。
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