紅井すぐりと桑野はぐみ

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
11 / 90
六月、世界との境界、選挙

第4話

しおりを挟む




 すぐりの文字通りの愛撫が終わった後、着せ替え人形の様に元通りに制服を着せられた。自分で着られるわよ、と言ったけれど、これが楽しいんだから獲らないでと拒否された。



「はい、終わり」



 几帳面に三角形になったネクタイの結び目をぽん、とひとつ叩いて、すぐりは私から少しだけ離れる。

 自由になった両手で身体を支えて、ずるり、と起き上がった。身体中が気怠くて、そして熱っぽい。

 はぁ、と溜息を零せば、目の前の蜂蜜色の髪の毛が揺れた。



「……はぐ、可愛いね」

「私、一応先輩なんだけど」

「ぷっ、……今更そんな事言う?」



 全部見せた癖に、とにやりと笑いながら私の髪を梳く。彼の指に私の黒髪が絡まったのを目に入れた時、どくりと心臓が震えた。

 その理由を探してはいけない気がして、見なかったことにした。代わりに脳裏に浮かんだひとつの質問を、目の前でにこにこ笑う満足げな後輩に投げつける。



「貴方、何で授業中に歩き回ってる訳?」

「え、もしかして、……はぐ、本当に知らない? 俺の事」

「知らない」



 キーンコーンカーンコーンと授業終了のチャイムが響く。その音を耳にしながら、目の前のすぐりが驚いたように笑うのを見ていた。見開かれた目がすぐに弛んで三日月型になる。その柔らかな色に、ふと、雨空に差し込む陽の光を思い出した。



「そっかぁ……、何だ、知らなかったのか」

「……だから、何を」

「……俺、この学校にめっちゃ資金援助してる会社の御曹司」



 お・ん・ぞ・う・し、と某キャッチコピーを真似した彼は乾いた音で笑って、その指をつと伸ばし、私の唇に触れた。

 その感触はまるで羽。指をそのままにして、そして、ゆるりと笑う。



「俺に媚びてくるやつばっかだからさ、はぐは知らなかったんだって、ビックリした」



 授業中に闊歩することも、教室から他の生徒を連れ出すことも、黙認。その謎が漸く解けて、ひとりでなるほど、と納得した。だから担任はあんな表情で私を見たのか。

 私が感じた感覚は当たっていた。まぁ仕方ないわ、自分の方が可愛いに決まっている。先生も人間だものね。

 そう言えば、とふと思う。あの日彼にこっぴどく振られた女の子は、その事を知っていたのだろうか。



「はぐ、生徒会役員って、どうやって選出するの」



 そんな事を考えていたら、いきなり突拍子もない質問が飛んできた。驚いて目を2,3回瞬く。何度瞬きしても、彼はそこで首を傾げていた。



「……選挙があるから、そこで演説して、全校生徒で選挙するけれど」



 それが何? と訊こうとした唇は、そっと彼のそれによって塞がれた。ちゅ、と小さなリップ音を立てて、大切そうに舐められた私の唇。

 自分がキスをされたと気づいて、そして、頬にカッと血が上った。



「な、何す、」

「あははー、無防備なのがいけないんだよ、はぐ」

「……っ」

「何だろー、はぐってさぁ、全世界に興味ありません、って顔してる癖にこういう時に素が出るよねぇ」



 それがたまんないんだけど、と小さく零して、時計を見上げる。そして私の腕を優しく掴んで、ベッドの上から保健室の床に揃えてある上履きへ誘導した。



「放課後、生徒会室案内して。また教室迎えに行くから」

「は?」

「……勝手に帰ったら許さないからね」



 そういって妖艶に笑む悪魔は、カチャン、と音を立てて保健室の鍵を解錠して、私の前から姿を消した。

 途端、酷い倦怠感が戻ってきてしまう。授業に戻らなきゃ。そう思いながらも、身体は正直にさっきまで縛り付けられていたベッドにもう一度腰かけて、そうして、気が付いたら眠っていた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

処理中です...