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六月、死にたい、出逢い
第4話
しおりを挟むそう思ったら、自分がここで勉強している事も、生徒会長という肩書を与えられている事も全部馬鹿らしくなった。馬鹿らしくなって、そして、生きている自分が恥ずかしくなった。
生徒会室の窓から外を見た。分厚い雲が覆っていて、いつもなら見ることが出来る夕焼けを見ることが出来なかった。
気が付けば、古ぼけた扉を通り抜けて、さらに階段を昇っていた。
私の向かう先にあるのは、立ち入り禁止の屋上。それでも私は知っていた。この場所は、生徒会室の鍵と同じ鍵で開けることが出来る事を。
シリンダーに鍵を差し込んで回す。ガチャン、と大きな音を立てて、空への道が開く。
屋上へ一歩、踏み出した。茶色のローファーに包まれた足も、紺色の靴下も、半分濡れかかった制服も、私の真っ黒の髪も、全部そぼ降る雨に浸されていく。
上を向いた。瞼に天からの雫が落ちてくる。目を瞑った。冷たくて、気持ちが良かった。
小さな興奮が私をゆるりと満たしていく。柵も何もない屋上に出来た水溜りを蹴る。雫が跳ねて、スカートを汚す。
歩く。雨はまだやまない。空を映す鏡を見ながら歩いていたら、縁まで来ていた。
下をそっと覗き込んでみれば、下にはプールがあった。雨だからか、誰もいなかった。
この屋上からプールの底まで、それは確かに深淵だった。
私の重さを解放してくれる高さであり、全部飲み込んで何も無かった事にしてくれる深さがあった。
ああ、居無くなってしまいたい。そんな言葉が、脳裏を駆けた。
私が居無くなっても、世界はきっと回っていく。
都心まで1時間ほどの片田舎、何の変哲もないJKが、学校で飛び降りて自殺した何てニュースはきっと、地元の新聞の片隅に載って誰かに捨てられて踏みつけられて消えていくんだろう。
「はは」
乾いた笑いが零れる。
屋上の白いコンクリートでできた縁に、そっとローファーの先端を揃えた。
このままバランスを崩せば、堕ちて逝ける、そう思った刹那。
立ち入り禁止の筈のドアノブが、雨音を切り裂いて音を立てた。
開いた先には、驚いたように笑う男子生徒と、恥ずかしそうに後をついてくる女子生徒。
彼らから私の位置は丁度死角だった。
声をかける間もなく驚いて目をぱちくりさせていれば、二人は二人の物語を始めた。
「ゆーちゃん、こんなところなんで入れるの?」
男子生徒が言う。女子生徒は顔を赤らめながら、僅かに俯き小さな嘘を吐く。
「ここで言いたくて……雨が降っちゃったけど、二人だけのここで」
だから準備したの、という。いやそれは嘘すぎる、私が開けたからここ開いてるんだもの。
そんな風に思う私を物ともせずに彼女はそっと湿り始めたであろう足元を見ながら言葉を落とす。
「すぐり君のことが、……好きです」
ロマンチックだな、と思った。雨の中で告白。なんかのドラマみたいだ。
このまま彼がそっと彼女を抱き寄せて、そして、微笑んで、はい、ハッピーエンド。
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