紅井すぐりと桑野はぐみ

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
2 / 90
六月、死にたい、出逢い

第1話

しおりを挟む



 キーンコーンカーンコーン。
 耳朶を揺らすCadd9のチャイムの音。

 その規則的な音階に、思い出したかのように肌がぞくりと粟立つ。

 毎日耳にするその音。「歴史をたどれば、あのかの有名なビックベンが正午に奏でている音楽なんだよ」と、ゆるりその目を三日月型に歪めて貴方は言ったわ。

 ピーターパンも、メアリーポピンズもびっくりね、まさか日本の規律正しい教育機関のタイマーになっているなんて。全ての時を通して、主よ導きたまえ、なんて笑かしてくれるわ。

 自分の未来は自分にしか決められないと、だから今を精一杯生きろと、後悔するのは自分だと、この正方形の教室に40人以上も詰め込んで、そう教えている癖に。

 唇を尖らせてそう答えれば、くすりと笑いながら、記憶の中のすぐりは私の唇に指を滑らせて妖艶に笑む。

 そっと私の頬に熱を灯して、ネクタイを解く。しゅるり、と自分の胸元で音がした気がして、そっと右手をネクタイの結び目に走らせる。



「優等生のはぐみちゃんは、そんな規律をちゃぁんと守っているのにね」


 そう言いながら、記憶の中の彼は、締められたワイシャツのボタンに手を掛ける。

 教室にいるはずの私は、まるでその続きを望んでしまったかのように、行き成り呼吸が苦しくなって、一生懸命に息を吸おうと唇を開いた。



「きりーつ」



 クラスメイトのその声で、ハッとした。また私は彼に囚われていたらしい。このままじゃいけないと思いながら、意識を覚醒させれば、まだチャイムは、鳴り続けていた。

 機械的なその音と共に響くのは、バサバサと教材を閉じる音、ファスナーを開く音、ペンを仕舞う音。そして、床と椅子の足が滑る金属音、遣る瀬無い「ありがとうございましたー」の合唱。

 ああ、今日も、平凡な一日だった。

 律義に教材を全部鞄に詰め込んで、肩から掛ける。「じゃーねー」という平凡な挨拶にてきとうに返事を返しながら、私は教室を後にする。

 そして、歩く。向かった先は、部活棟。

 古ぼけた扉から、1年生だろうか、半袖のランニングウェアの生徒が出てくる。私に向かってぺこりとお辞儀をして可愛らしく挨拶をしていく。

 無駄に得意な愛想笑いを返しながら扉の中に入れば、むっとした汗の香りと制汗剤の匂いが私を襲う。慣れた様に息を堪えながら階段を上がる。

 上がって揚がる。カツンカツンと音を立てて、一段一段踏み締めて、のぼる。


 最上階は5階。学校の建物にしては高いほうだと思う。なぜエレベーターが付いていないのかは謎。

 そんな事を思っていたら、もうそのドアは目の前。止まった刹那、カツン、と音を立てた茶色のローファーを脱ぎ、ある部屋の扉を開いた。

 まだ部屋に入る前から、開いた扉の隙間で、ゆるりと笑う声がする。その音に、ぎゅっと身体が強張る。



「遅くない? 何してたの」



 閉まった扉の外側には、気の札に大仰な文字で、<生徒会室>と記されている。

 ――……私達の、巣窟。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

早春の向日葵

千年砂漠
青春
 中学三年生の高野美咲は父の不倫とそれを苦に自殺を計った母に悩み精神的に荒れて、通っていた中学校で友人との喧嘩による騒ぎを起こし、受験まで後三カ月に迫った一月に隣町に住む伯母の家に引き取られ転校した。 その中学で美咲は篠原太陽という、同じクラスの少し不思議な男子と出会う。彼は誰かがいる所では美咲に話しかけて来なかったが何かと助けてくれ、美咲は好意以上の思いを抱いた。が、彼には好きな子がいると彼自身の口から聞き、思いを告げられないでいた。  自分ではどうしようもない家庭の不和に傷ついた多感な少女に起こるファンタジー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...