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六月、死にたい、出逢い
第1話
しおりを挟むキーンコーンカーンコーン。
耳朶を揺らすCadd9のチャイムの音。
その規則的な音階に、思い出したかのように肌がぞくりと粟立つ。
毎日耳にするその音。「歴史をたどれば、あのかの有名なビックベンが正午に奏でている音楽なんだよ」と、ゆるりその目を三日月型に歪めて貴方は言ったわ。
ピーターパンも、メアリーポピンズもびっくりね、まさか日本の規律正しい教育機関のタイマーになっているなんて。全ての時を通して、主よ導きたまえ、なんて笑かしてくれるわ。
自分の未来は自分にしか決められないと、だから今を精一杯生きろと、後悔するのは自分だと、この正方形の教室に40人以上も詰め込んで、そう教えている癖に。
唇を尖らせてそう答えれば、くすりと笑いながら、記憶の中のすぐりは私の唇に指を滑らせて妖艶に笑む。
そっと私の頬に熱を灯して、ネクタイを解く。しゅるり、と自分の胸元で音がした気がして、そっと右手をネクタイの結び目に走らせる。
「優等生のはぐみちゃんは、そんな規律をちゃぁんと守っているのにね」
そう言いながら、記憶の中の彼は、締められたワイシャツのボタンに手を掛ける。
教室にいるはずの私は、まるでその続きを望んでしまったかのように、行き成り呼吸が苦しくなって、一生懸命に息を吸おうと唇を開いた。
「きりーつ」
クラスメイトのその声で、ハッとした。また私は彼に囚われていたらしい。このままじゃいけないと思いながら、意識を覚醒させれば、まだチャイムは、鳴り続けていた。
機械的なその音と共に響くのは、バサバサと教材を閉じる音、ファスナーを開く音、ペンを仕舞う音。そして、床と椅子の足が滑る金属音、遣る瀬無い「ありがとうございましたー」の合唱。
ああ、今日も、平凡な一日だった。
律義に教材を全部鞄に詰め込んで、肩から掛ける。「じゃーねー」という平凡な挨拶にてきとうに返事を返しながら、私は教室を後にする。
そして、歩く。向かった先は、部活棟。
古ぼけた扉から、1年生だろうか、半袖のランニングウェアの生徒が出てくる。私に向かってぺこりとお辞儀をして可愛らしく挨拶をしていく。
無駄に得意な愛想笑いを返しながら扉の中に入れば、むっとした汗の香りと制汗剤の匂いが私を襲う。慣れた様に息を堪えながら階段を上がる。
上がって揚がる。カツンカツンと音を立てて、一段一段踏み締めて、のぼる。
最上階は5階。学校の建物にしては高いほうだと思う。なぜエレベーターが付いていないのかは謎。
そんな事を思っていたら、もうそのドアは目の前。止まった刹那、カツン、と音を立てた茶色のローファーを脱ぎ、ある部屋の扉を開いた。
まだ部屋に入る前から、開いた扉の隙間で、ゆるりと笑う声がする。その音に、ぎゅっと身体が強張る。
「遅くない? 何してたの」
閉まった扉の外側には、気の札に大仰な文字で、<生徒会室>と記されている。
――……私達の、巣窟。
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