ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第13話

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「………そう、だよね」


あれ。まただ。
どうして、私が傷ついているの?

歳三が、いくら女の人と遊んでようが、私には何の関係もないはずなのに。

そう思い瞼を伏せた私の頭を、その大きな手のひらでわしゃわしゃと撫で、彼の布団の上に腰を下ろす。


「………寝るか」

「うん……」


もやもやと、心に黒いものが張り付く。

少しだけ隙間を空けて、敷かれた隣の布団にごろりと横になる姿でさえ、目に入れているのが辛い。

目を瞑って、歳三に背を向けるように寝返りを打った。

数分くらい経過しただろうか。


「なぁ、璃桜?」

「………」


声を掛けられたけれど、私は今自分の黒い心を押さえるので精一杯で。

背を向けているのも相まって、寝たふりをした。

さっきの今だから、無言なってしまうのは許してほしい。


「寝たのか……」


どうして私が寝たふりなんて、そんなことをしているのか、考えたくもないけれど。


「……おめぇは、未来がわかる、んだよな」


ぽつりと落とされた言葉に、どうしてだか涙が出そうになった。

ひどく、距離を、感じる。
振り向けば、手を伸ばせば、触れられる位置にいるというのに。

同じ、人間なのに。
平成と、幕末という、生きてきた時代が違うだけで。

ものすごく、隔てられているような。

そんな、感情が心を支配する。

ぎゅっと目を瞑って、そんな考えを追い払おうとして、ぐっと枕に頭を沈めた。

その拍子に、瞳から零れた涙が唇を濡らす。

一滴だけだけれど。
それでも、ものすごく塩辛かった。

まるで、私の心を体現しているかのように。




「……ね、寝れない…」


穏やかな寝息を立てて眠る歳三を見て、そっと溜息を零す。

何であの人はそんなにすぐ寝れるの。

その問いの答なんてすぐにわかるのに、そんな事を、自分の頭で考えたことすら、嫌になる。

八つ当たりみたいなものだって、自分でもわかっている。

けれど、そこまでしてでも。
心の靄も、瞳に幕を張る涙さえも、消えてはくれない。

涙が零れた理由を、その訳を、考えてはいけない気がする。
考えてしまったら、たぶん。

私は、また一つ、ひどく邪魔で、鬱陶しいものを抱えてしまうと思うから。



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