ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第4章 試験

第15話

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「まぁまぁ、璃桜さんに結果を聞かせてあげましょう」

「そうだな」

「でもよ、どうやって決めるんだ?」

「多数決、でいいんじゃないですか」


がやがやと五月蝿い皆に、歳三が黙れと唸る。


「俺は決めてんだよ」

「え、土方さんの一存ですか?!」


振り向いた総司の上げた疑問の声に、近藤さんと山南さんが答える。

「昨日、歳が決めてもいいことにしたんだよ、総司」

「土方君の小姓ですし、彼は璃桜さんの過去を知っているようですから」


………私は歳三なんて知らないんだけど。

一応、そうちゃんと対等に戦うことができた。
そう言えば、それって、もしかしてすごい事なんじゃない?

ここは幕末。鉄砲はあったとしても、剣が主流の時代だ。
その中で過ごす人、しかもあの沖田総司と対等に手合せできたなんて、と一瞬自分に酔いしれた時。


「……璃桜」


歳三の呼びかけに、ごくりと喉が鳴る。
知らぬ間に、耳に痛いほどの静寂が稽古場に広がっていた。


「…………おめぇは、俺の小姓だ」


え。嘘。
……良い線いったと思ったんだけど、と首をひねる。

何がいけなかったのだろう。


「ええ? 嘘でしょ、土方さん!」


その決断に一番初めに反応したのは、平助だった。


「なんだ平助、文句あんのか」

「だって、可笑しい! 俺より絶対に璃桜の方が強いだろうし、皆もそれを見て分ってるはずじゃないか」


けれど、平助の問いかけに頷いたのはなぜだか総司だけだった。


「俺、負けそうになったんですよ? 土方さん、その貴重さ分ってます?」

「そうだそうだ! 総司に勝てる奴なんか、この世に何人もいねぇよ!」


そんな二人に、自分の実力が認められたと、少しだけ嬉しくなった。

けれど。
依然として他の人は反論を起こさずに黙っていた。


「馬鹿か、てめぇら」


歳三の艶やかな唇から、酷く冷たく、言葉が零される。


「ここは、何処だ? ………京だ。揃ってお遊びしてた、試衛館のあの頃とは違ぇんだよ」

「でも、璃桜が強いのは事実、」

「うっせぇ、黙れ。璃桜は、小姓だ。隊士にはさせねぇ」


そうちゃんの反論に被せたその言葉に、ぐっと唇を噛む。

内容に不服があるわけではない。
今はまだ何も固まっていないかもしれないが、後少しすれば、新撰組の鬼の副長になる人だ。

人選や配置は、人よりもずば抜けてうまいはずだから、その歳三が、私が小姓だというなら小姓を精一杯やろうと思う。


けれど。

歳三が落とした言葉が、あまりにも、冷たくてそっけなくて。


まるで、私は壬生浪士組の隊士にはいらないと、そう言われているような気がした。



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