ただ儚く君を想う 壱

第4章 試験

第14話

「璃桜！！　おめぇ、強ぇな！！　二刀流のあんな使い方、初めて見たぜ！」


わしゃわしゃと私の頭を強く撫でる左之さん。


「俺、多分負けてた………」


何故かかなり落胆している平ちゃんに、うんうんと頷く新八さん。


「そうだろうなぁ、平助はあそこまで速くないからなぁ」

「だよなぁ…………って、ぱっつぁん！！！　そこは否定するとこだから！！」


ぎゃぁぎゃぁと騒ぐ平ちゃん達の声を聞いていれば、先ほどまでの緊張感などどこかに行ってしまったようで。


「………ふふ」


くすくすと笑っていれば、ぽんと肩に手のひらを置かれた。


「…………璃桜」

「さ、斉藤さん？！」


誰かと思って振り向けば、斉藤さんがじっと此方を見ていた。
その考えていることの分らない、澄んだ瞳のまま、何を言うのかと思えば。


「………俺とも、手合せ頼む」

「は？」

「お前と剣を交えたい」

「え、は、はぁ」


曖昧に頷けば、すぐさまその辺に落ちていた竹刀を拾って戻ってきた。
その姿に、非常に突っ込みたくなる。

ちょっと待ってよ、今ですか。
てゆーか、何時から呼び捨てになったんですか。


「…………待て、斉藤」


私の心を読んだかのように、真上から声がして。
見上げれば、じっと此方を見下ろす、漆黒の双眸があった。


「璃桜は、試験をしたんだ。結果を言わなくちゃならねぇ」

「……それは、残念です」


そうだった。

でも、結局歳三に止められてしまったし、勝敗はつかなかった。

微塵も残念そうに思ってない表情の斉藤さんが竹刀を片付けに行くのを見ながら、それって、どうなるんだろうと思った。


興味津々で、ほぼ真上にある歳三を見上げる――――――


…………ん？見上げる？
そこで漸く、気が付いた。


「…………歳三？」

「あ？」

「…………いつになったら離してくれるの」


―――――――今までずっと、歳三の腕の中にいたことに。



言った瞬間、ざざざとすごい音を立てて歳三が後ずさる。

いきなりの解放感に、よろりと身体が傾いだ。
ふん、とおなかに力を入れて倒れるのを防ぐ。

その様子に、くつりと新八さんが笑って。


「土方さんでも、そんなになるんだな」

「うるせぇ」


一言文句を言おうと見上げた歳三の頬は、朱色に染まっていた。

どういうことかは全く分らなかったけれど、その言葉に山南さんと源さんが顔を見合わせてがゆるりとほほ笑んだのが見えた。