56 / 161
第4章 試験
第13話
しおりを挟む木刀を斜めに構える姿はまるで、元々この時代の人だったかのように馴染んでいて。
目の前で相対しているのが“総司”なんだと、強く思った。
その刹那、ふっとその琥珀が眇められ。
ダンッ!!
――――――お互いの足が、床を蹴り上げた。
トップスピードにのって、木刀を振り下ろす。
総司の切っ先が、己に迫ってくるのを視界には捉えられずに、感覚で悟る。
どちらが、速いか。
竹刀にぶつかるか、あるいは―――――――――
「そこまでだ」
「わっぷ」
声と同時に、目の前が濃紺に染まる。
何が起きたのか理解できずに、顔を上げればサラリと艶やかな黒髪が目に映った。
そのままゆるゆると視線を上げていけば、自分の頭の上に端整な横顔があった。
「総司、やり過ぎだ」
頭の上で落とされた歳三のその言葉に、はっと我に返る。
それに伴って、周りの景色が漸く戻ってきた。
何時でも無表情な斉藤さんと、始めから変わらず心配そうな表情をした山南さん以外が、全員唖然として此方を見ていた。
相対する人に関連することしか感じられなくなるほどまでに、今の手合せに集中していたんだと思った。
何が起きたのか知りたくて、自分の今の状況を見下ろしてみる。
歳三の左手によって右手の木刀を掴まれて、その切っ先は総司の木刀を受け止め、竹刀は左腕ごと歳三の右手にすっぽりと抱え込まれていた。
少し見方を変えれば、つまるところは、抱きしめられていて。
その事実に若干恥ずかしくなって、顔を逸らす。
その先に、しょんぼりと肩を落とすそうちゃんがいた。
「ごめんなさい…………」
「総司、なに本気だしてんだ、いつもはぜんぜん本気ださねぇ癖によ」
「璃桜が強いから………つい」
「つい、じゃねぇだろ、怪我してたら如何するつもりだったんだ? ああ?」
歳三の強めの言及に、薄い肩をさらにちぢこませるそうちゃん。
その表情は、全くと言っていいほどさっきまでとは違うものだった。
「ごめんね、璃桜。俺、集中すると周りが全然見えなくなるから」
………心の何処かで、いつものそうちゃんだと思ってほっとする自分がいた。
「大丈夫、歳三が止めてくれたから、全然怪我なんてしてないよ」
「よかった……璃桜を怪我させてたら、俺生きていけない」
「そうちゃん、大げさ」
はぁぁ、と大きなため息をついて、そうちゃんがその場にしゃがみ込んだのを皮切りにして、わらわらと人が集まってきた。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる