27 / 161
第3章 ひとびと
第1話
しおりを挟むこの部屋に入ったときから、良い香りにお腹が刺激されて、もう耐えられない。
なのに。
「もういーじゃないですかー、平助とも仲直りしましたって」
ぶつぶつと、文句を言い続ける土方さんに、総司がへらへらと笑いながら言い訳をしていた。
あれは最早、もっと怒りのボルテージを上げることにしかならないんじゃないかと思う。
「土方さーん、お腹すいたから早く食べましょうよー」
「ああ?総司、てめぇが平助とごたごたしてっから、皆を待たせる羽目になったんだろうが。何で俺のせいになってんだよ」
これは、如何すればいいのだろうか。
周りを見れば、日常茶飯事なのだろうか、苦笑して二人を見ていた。
ほっといたら何時までたってもご飯に有りつけなくて、周りの人たちがみんな空腹に目を回してしまいそう。
新八さん、左之さんの二人なんて、イライラが顔に出てきてしまっている。
その様子を見て、思う。ここは、私が何とかしよう。
「………土方さん、そうちゃん」
そっと呼びかければ、
「なぁに、璃桜」
「璃桜、黙ってろ」
緩く笑う総司と、色気のある流し目でこちらを若干睨む土方さん。
めげずに言い募る。
「お腹、すいてて、皆待ってるみたいですよ?」
「そうだよねー、ほら、土方さん、」
総司はここぞとばかりに私に便乗してきた。
……もう、少し自分で何とかしなさいよ。
むくりと頭をもたげるそんな気持ちも、がん、と睨んでくる土方さんと目があって、あっという間にしぼんでいく。
「………何でそんな睨むんですか」
「……………璃桜、おめぇも原因だぞ。何、他人面してんだよ」
その言葉に、イラッと来た。
せっかくのイケメンなのに、なんで言うことがそんなねちっこいのよ、イメージくずれるじゃない。爽やかに笑いなさいよ。
もはや見当違いの方向性で苛ついているのは自分でもわかっているが、憧れの土方歳三像を崩してくれた罪は大きい。
二度と敬語で話すもんか、と心で決めた。
「………してない。そもそも、皆、貴方を待ってるのに」
「ああん?」
その眼差しに、うっとたじろいでしまいそうになるのを、ひた隠しにして、むぅ、と膨れ、ぽつりと悪口を呟いた。
「………ガラ悪。いつまでも女々しい」
「…………」
その言葉に、言い返してくると思ったのに、逆にしーん、と静まり返った。
奇妙に感じて、周りを見渡せば、何故か、その部屋中の人がこちらに注目していて。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました
天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。
伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。
無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。
そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。
無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
思い出の更新
志賀武之真
青春
小学校の卒業式を控えた亨と華。
二人には決して漏らす事のできない出来ない秘密があった。
あの夏、華を襲った悲劇。あの忌まわしく辛い思い出。
でも華は決意した。秘密の扉を開放し、強く生きてゆくことを。
そして亨も、精一杯の勇気を搾り出し、自分の思いを華にぶつける。・
亨と華の思い出が更新された。
(7話 総文字数約15,000字;短編)
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。
チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。
なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!
こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。
※注:すべてわかった上で自重してません。
義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。
五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
異世界からの手紙。
晴海 猫
ファンタジー
ある日、自宅の郵便受けに届いた白い封筒。宛名も差出人も書かれておらず、不思議に思いながら中を開けるとそこにはこう書いてあった。
「これを読んだら、はいと答えてもう一度送り返してほしい」
怪しげなその文面に首を傾げつつ、主人公は下の方に「はい。」とだけ記して、翌日の朝近所のポストへ投函した。その日から、差出人不明の人物との文通が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる