ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第3章 ひとびと

第1話

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この部屋に入ったときから、良い香りにお腹が刺激されて、もう耐えられない。
なのに。


「もういーじゃないですかー、平助とも仲直りしましたって」


ぶつぶつと、文句を言い続ける土方さんに、総司がへらへらと笑いながら言い訳をしていた。
あれは最早、もっと怒りのボルテージを上げることにしかならないんじゃないかと思う。


「土方さーん、お腹すいたから早く食べましょうよー」

「ああ?総司、てめぇが平助とごたごたしてっから、皆を待たせる羽目になったんだろうが。何で俺のせいになってんだよ」


これは、如何すればいいのだろうか。
周りを見れば、日常茶飯事なのだろうか、苦笑して二人を見ていた。

ほっといたら何時までたってもご飯に有りつけなくて、周りの人たちがみんな空腹に目を回してしまいそう。


新八さん、左之さんの二人なんて、イライラが顔に出てきてしまっている。
その様子を見て、思う。ここは、私が何とかしよう。


「………土方さん、そうちゃん」


そっと呼びかければ、


「なぁに、璃桜」

「璃桜、黙ってろ」


緩く笑う総司と、色気のある流し目でこちらを若干睨む土方さん。


めげずに言い募る。


「お腹、すいてて、皆待ってるみたいですよ?」

「そうだよねー、ほら、土方さん、」


総司はここぞとばかりに私に便乗してきた。
……もう、少し自分で何とかしなさいよ。
むくりと頭をもたげるそんな気持ちも、がん、と睨んでくる土方さんと目があって、あっという間にしぼんでいく。


「………何でそんな睨むんですか」

「……………璃桜、おめぇも原因だぞ。何、他人面してんだよ」


その言葉に、イラッと来た。

せっかくのイケメンなのに、なんで言うことがそんなねちっこいのよ、イメージくずれるじゃない。爽やかに笑いなさいよ。
もはや見当違いの方向性で苛ついているのは自分でもわかっているが、憧れの土方歳三像を崩してくれた罪は大きい。

二度と敬語で話すもんか、と心で決めた。


「………してない。そもそも、皆、貴方を待ってるのに」

「ああん?」


その眼差しに、うっとたじろいでしまいそうになるのを、ひた隠しにして、むぅ、と膨れ、ぽつりと悪口を呟いた。


「………ガラ悪。いつまでも女々しい」

「…………」


その言葉に、言い返してくると思ったのに、逆にしーん、と静まり返った。

奇妙に感じて、周りを見渡せば、何故か、その部屋中の人がこちらに注目していて。



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