ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
12 / 161
第2章 桜の導き

第5話

しおりを挟む



「うん、その武士。なんか時空を超えちゃったみたいで、何故だか僕たちのうちに来てしまった。たぶん、地震のせいで、時空がゆがんだとか、そういうことなんだろうけどさ。当時は何もわからなかったけど、たぶん、その人、お偉いさんだったんだろうね、焦った武士は、問答無用で父さんと母さんを斬った」


時空を、超えて。
父さんと、母さんを、斬った?

時空を超えるのは、私も実際にしたことだから、もう、今は信じることができる。
と言うか、信じないわけにはいかない。

けれど、もう一つの言葉に、どっと体温が上がった気がした。


「待って、お父さんと、お母さんは、そんなので、……殺されてしまったの……?」

「うん。ねぇ、璃桜? そういうことって、この時代では、普通に起きていることなんだ」

「…………許せない……」


怒りでふつふつと躰が熱くなるのを感じる。

やり場のない憤りを感じて、目を吊り上げていれば、ぽん、と頭を叩かれた。


「そんなに、興奮しない。まだ、話は続くんだから」

「だって……、そうちゃんは、平気だったの?」

「…………そんな訳、無いじゃない。俺だって怖かったし、悲しかったし、いろいろごちゃまぜな感じがしたよ、その時は」

「………うん、」


私、馬鹿みたいだ。
宗次郎は、現場を見てしまって、すごく辛い思いをしたと思う。

私なんかよりも、ずっとずっと。
それでもこうして何でもないように話してくれている。


他でもない、私が頼んだから。


「……………ごめん」

「ふふ」


そんなことを思って、どうにかこうにか自分の怒りを押さえれば、苦笑気味で諭すように、いい子、と頭を撫でられた。

さああ、と春風が二人を撫でるように流れていく。

旧暦だから、1か月強季節が進んでいるのか、だから温かいのか、なんて他愛もないことが頭を掠めた。
その間も、ぽんぽん、と撫でられ続ける頭に、少しだけ膨れる。


「…………なんか、子ども扱い」

「璃桜は、俺の双子の妹でしょ」

「……そうだけど…、」


同い年なのに。
そう言いかけた私の言葉を遮って、宗次郎はにやりと笑った。


「で、俺のことに気が付いた武士は、勿論血濡れた刀を振りかざして俺に向かってきた。小さな俺が武士なんかにかなうわけないでしょ?死を覚悟した時、また揺れが来た。そしたら、廊下にいきなり光の穴が開いたんだ。俺と武士は、そこに落ちた、というか、吸い込まれた」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

新選組秘録―水鏡―

紫乃森統子
ライト文芸
新選組好きが高じて、マニアを自称する会津出身の高校生「高宮伊織」が、とある事故をきっかけに幕末の京へタイムスリップ。 幕末に生きる人々との出会い、現代では経験し得ない日常を通して戸惑いながらも少しずつ成長していく。 シリアス半分、コメディ半分。恋愛要素はほぼないです。 ★「第6回ライト文芸大賞」で奨励賞を頂きました。まことにありがとうございます(*´人`*)

処理中です...