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転校生

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そう言って、アランの手が私の手を握ろうとした瞬間――



目と鼻の先にあったアランの顔が一瞬で小さくなった。

それはアランが遠くなったからと判断出来た時には、もうアランの椅子ごと教室の端まで移動していた。

その様子はまるで、私の背後から風でも吹いて吹っ飛ばされたようだった。

窓と窓の間にある壁にガンッ!とアランの座っていた椅子がぶつかる音が耳に入って来ると同時に、私の頭上から低い声が落ちて来る。

「おい、何教室でさかってんだよ」


「えっ……?」
ハッとして見上げると、そこにはさっきまで待ちに待っていたはずのディオンが立っていた。

ディオンの目を見た瞬間に分かった。
今のディオンは危険だと。
その危険度は、私の首に手をかけた時以上かもしれない。

「うっ……なんなんや……」
椅子を壁際に残したままユラりと立ち上がったアランは、なぜか手首を押さている。ぶつかった時に痛めたのだろうか。

「何してるの!?」
私が叫ぶとアランは睨みを聞かせて言う。
「あんた……まさか特別講師か?」

「だったらなんだよ」
首を傾げて目を細めたディオンは、私の横を通り過ぎてアランと私の間に入る。

「講師やのに、えらいひどい挨拶なんやな。魔法学校ではこんな挨拶が普通なんか?」

その時、アランが吹き飛ばされたのに辺りが静かすぎる事に気付いて周りに目をやる。
すると、ディオンが来た事にも気付いてないんじゃないかと思うくらいの様子で、真面目に自習をするクラスメイトの後ろ姿が映り、眉を寄せた。


気付いて……ない?

今はそんな事より、アランと私の身の安全の確保が先だ。

それにしても、どうしてディオンはこんなに不機嫌なんだろう?
講師会議でイラつく事でもあったんだろうか?

ディオンの事はよく分からないけど、全く関係のない人に八つ当たりするようなタイプじゃないと思う。

とにかく、原因が分からないとどうしようもない。
ここは私が上手く探って……

「おい、無視か?ホンマ、めっちゃKYやな」
ぎゃーー!!アラン!!死ぬ気!?ディオンは普通の講師とは違うのよ!?
と、心の中で悲鳴を上げる。

「は?KYだ?」

「アラン待っ……」
その時、教室の温度は暖かいはずなのにディオンの背中越しにひどい殺意を感じて、ブルっと全身が震えた。


アランは、自分の赤くなった手首を指さして言う。
「タイミング考えてや。俺、さっき全力の告白してたんやけど。それに何したのか分からんけど手もめっちゃ痛いし」

「アラン!」
今のヤバイ状況に気付いてほしくて小声で名前を呼んでからディオンの背後で首をブンブン振ると、何?というアランの顔がこちらに向く。

何?じゃないわよ!気付いてよ!
と心の中で泣きそうになると、ディオンの周りにどす黒い空気がただよって来た。


「うわぁ!な、なんやこれ!?」
渦巻くような黒いすすの様な空気に、私とアランは驚きを隠せず宙を見上げた。
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