【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか？

人質に取られたラブ

1

誰もいない夕陽色に染まる放課後の実験室で、私は進級試験の為に黙々と自主学習を続けていた。

「次こそは、進級してみせる！」
知識だけは十分にあった私は、魔力の覚醒のお蔭で、一度も成功したことがなかった実験に3回連続で成功することができた。

だから多分大丈夫だと思うんだけど……。
今まで散々滑って来たせいで、それでも心配な私は、実験の注意点をノートにびっしりと書き込んでいく。


その時、ペンが走る音が、窓の外から入って来た黄色い声にかき消された。

煩うるささを感じるその声に小さな苛立ちを感じ始めると、その声がさらに大きくなって来て、ついに限界が来た。

開けていた窓を閉めようと立ち上がると、すぐ横から野太い声がした。
「何やってんだ」

その声に全身が小さく跳ね上がった。
「ひっ！」

誰もいないはずの実験室で、突然聞こえたその声に、目を見開いて首を振る。


すると、私の真横に、ポケットに手をつっこんだままふわりと浮くディオンが映った。

「ディオン！」
実験室に突然ディオンが現れたこの状況に、あの日を思い出してデジャブを感じてしまう。

「やっと覚えたのか」
そう言われてハッと口元を押さえる。

メイとのランチの時に、何度もこいつの名前が上がっていたせいで、つい名前が口から滑り出してしまったようだ。


あー。
それにしても、日中だけじゃなくて放課後までこいつに会ってしまうなんて……今日は厄日か何かですか？

とりあえずもう実験だけは無事終わったし、さっさと帰ろう。まとめ書きは部屋で出来るし。

「ここ使うの？私はもう帰るから、使うんだったらお好きにどうぞ」
そう言って机の上に広げていたノートやプリントを手に取ると、ディオンは私の横に降り立ってビクっとした。
背ぇ高！真横に立たれて身長差に驚く。

ディオンは私の書いたノートを覗き込むせいで肩が触れた。
その事にドキっとしてしまって、慌てて上半身を引く。

「ふぅん。自習してたのか？意外と真面目だな」
授業以外では出来るだけ関わりたくない私は、その言葉を無視をして帰り支度を続ける。

「まさかお前、俺を無視してんじゃねぇだろ……」
話している最中、ディオンはハッした顔をして私の名を呼んだ。

「シエル」
また呼び捨て！？いい加減にしてほしい。

「なによ」
怒り混じりで振り返った時、窓の外から聞こえていた女子達の話し声が近づいて来たことに気付いた。

「かくまえ」
ディオンは突然、その場で机の下に隠れるようにしゃがみ込んだ。


「何してんの……」
謎の行動に驚いていると、実験室の扉がガラガラっと開いた。