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追憶
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しおりを挟む香織さんと崇お兄ちゃんと別れた後、さっきまで晴れ渡っていた空は、嘘みたいに一気に天気が崩れた。
そして仕事場に向かっている間に、天気は酷くなって嵐と呼べる程の大雨に変わった。
ガーッと自動ドアが開くと、オープン前でまだ明るい店内が顔を出す。
「おはようございます」
傘を閉じて腕とかについた雨を払いのけながら挨拶すると、待っていたかのように歩いてきた来た店長が胡散臭い笑顔で聞いて来る。
「おはよーHARU。今日の客呼び状況はどんな感じ?」
「凄い雨なので何人かキャンセルが入ってしまって、今日は5人?くらいだったと思います」
「5人か、まぁ悪くないな。でもHARUならもっと呼べるだろうから、他の客にもいっぱい連絡しとけよ」
整えられた顎下の小さな髭を一度触ると、ニコっと笑って背中をトンと叩いてくる。
「……はい」
今はそれどころじゃないのに……。
出来れば誰とも話したくない気分。
そう心の中で呟きながら更衣室のドアを開けると、更衣室の中は色々な香水が混ざりあい、むせるような匂いが鼻を突いて、『客呼べ圧』に対する文句が飛び交っていた。
まぁ、言いたくなるのは分かる。
呼べって言われても、わざわざこんな嵐の日に来てくれる人なんて、なかなか居ないし。
あんまり来て来てと言うと嫌がられるし客離れも怖いし。
それに逆の立場だったら、わざわざこんな嵐の中に行きたいなんて思わない。
ドレスに着替えて、待機しているヘアメイクさんに髪をセットしてもらって更衣室を出ると、さっきまで明るかった店内は薄暗くなっていて、ゆったりめのクラブミュージックが耳に入ってきた。
待機室に入ると、着飾った女の子が整列するようにスマホ片手に座っている。
みんな客に電話したり、せっせとメッセージを打っている中、隣に座って話しかけて来たのはNo1で一番仲のいいあかり。
「HA~RU!なーんか元気ないじゃん」
「あっ、あかり」
「HARU。店長や担当はああ言ってたけど、別に今日は客呼べなくてもいいっしょ?こんな嵐だし」
「うん……それはいいんだけど」
「あれ?違ったかー、私洞察力の神なのに」
あちゃー、と言う感じで頭を抱え天井を向く。
「それ、自分で言う?」
「HARUが最近そう呼んでくれないから自分で呼んでみたわ」
「え?『洞察力の神』気にってたの?」
「まぁね。で、どうしたの?
どうせ嵐がおさまるまでは殆ど客も来ないだろうし、私でよかったら聞くよ」
心配そうな目が覗いて、心をギュっと掴まれる。
「ん……聞いてくれる?」
「よし分かった!てんちょ~!私とHARUで客呼びのミーティングするんで、あっち席貸してぇ~」
面接などにも使われる奥まった客席を指さすあかりに、店長は二つ返事する。
「お、いいぞ!頑張って客呼べよ!お前らには期待してるからな!」
と言うと、店長は上機嫌に私とあかりの背中をポンポンと叩いた。
さすがNo1のあかり様。
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
「ふーん。なるほど、それで元気がないのね」
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