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涙の決断

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プロポーズにでも使いそうなその言葉に、体が勝手に反応してビクっと震えた。
深い意味なんてこれっぽっちもない彰の言葉に、心は一瞬嬉しくなっては現実に気付いて落ち込んだ。

彰の一言だけで、こんなにも心乱れて踊らされる。



「バっ、…………馬鹿じゃないの?」
動揺してつい出てしまった『馬鹿』という言葉に、彰の反感を買ったと思っていたらーー

「本当に、馬鹿になれたらいいのにな……」
「え?」
誰もが思わず息を飲むほどに綺麗な顔が、じっとこちらを向く。


でも何をするわけでもなく、何を言うわけでもない。
何故か動かない彰に釣られるように、私も彰を見つめた。

程なくして静かになっていた噴水が、彰のすぐ後ろでまた音を立てて踊り出す。
その音が引き金になったのか、やっと彰が口を開いた。


「あぁ止めた。……もう俺、色々考えるの止める」

そう言い終わると同時に、掴んでいた手首がグイっと引っ張られて、引き寄せられて私の頬は彰の胸に当たった。


何が起きたのか理解出来ないうちに背中に手が回され、彰と私の間に空気なんて入る隙間もないくらいに強く抱きしめられた。

おろしたての服の香りと、私の大好きな彰の香りが鼻をかすめる。

その香りは私の肺に入って、全身に巡って、脳に回って私の思考までおかされるみたいだ。
彰の香りは、まるで媚薬みたい。

たった数週間ぶりの彰の香りが、懐かしくて、酷く苦しいくて……思考を狂わされるくらいに愛おしい。


掴んでいない方の手が、私のあごをグイッと持ち上げた。

息も触れそうな程の距離にあるその鋭い目は、真っすぐに私をとらえていた。
その目は真剣そのもので、私はもうそれから逃げられそうにないと簡単に悟る。

抑えようと思っても全く抑えれない高まる心臓と、更に上昇する頬に熱。

「お前は、俺から逃げらんねぇよ」
そんな捨て台詞のあと、まぶたが薄く閉じていく彰が視界を埋めて行く。

来るだろうキスに抵抗すればいいのに、私も釣られるように反射的に薄く目をつむってしまった。


……ほら、だから駄目だったのよ。

会えば流されるって分かってたから。



そんな事を心の中で呟いた時ーー


「あーママ見てー!あそこ、チューしてる」

そんな声が耳に飛び込んで来て、薄く閉じたばかりのまぶたを最大限に開けた。
瞬間的に声のした方に視線を移すと、遠くから指を指す子供が目に入った。

何故かスッカリ忘れていた!
今は太陽の光がサンサンと差す時間で、ここは老若男女のいこいの場だって事を!

一気に恥ずかしさが込み上げて、今彰としていたやり取りを無かった事にしたい気持ちが込み上げた。
だからきっと、そのせいだろう。

この手が無意識に動いてしまったのは。

「ちょっ、おい!」

いきなり目の前の彰が大きな声を出すから、子供から視線を戻す。
するとそこには、スローモーションのように後方の噴水側に、落ちるように倒れて行く彰が目に飛び込んで来た。

「……えっ」
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