228 / 337
涙の決断
46
しおりを挟む
プロポーズにでも使いそうなその言葉に、体が勝手に反応してビクっと震えた。
深い意味なんてこれっぽっちもない彰の言葉に、心は一瞬嬉しくなっては現実に気付いて落ち込んだ。
彰の一言だけで、こんなにも心乱れて踊らされる。
「バっ、…………馬鹿じゃないの?」
動揺してつい出てしまった『馬鹿』という言葉に、彰の反感を買ったと思っていたらーー
「本当に、馬鹿になれたらいいのにな……」
「え?」
誰もが思わず息を飲むほどに綺麗な顔が、じっとこちらを向く。
でも何をするわけでもなく、何を言うわけでもない。
何故か動かない彰に釣られるように、私も彰を見つめた。
程なくして静かになっていた噴水が、彰のすぐ後ろでまた音を立てて踊り出す。
その音が引き金になったのか、やっと彰が口を開いた。
「あぁ止めた。……もう俺、色々考えるの止める」
そう言い終わると同時に、掴んでいた手首がグイっと引っ張られて、引き寄せられて私の頬は彰の胸に当たった。
何が起きたのか理解出来ないうちに背中に手が回され、彰と私の間に空気なんて入る隙間もないくらいに強く抱きしめられた。
おろしたての服の香りと、私の大好きな彰の香りが鼻をかすめる。
その香りは私の肺に入って、全身に巡って、脳に回って私の思考まで侵されるみたいだ。
彰の香りは、まるで媚薬みたい。
たった数週間ぶりの彰の香りが、懐かしくて、酷く苦しいくて……思考を狂わされるくらいに愛おしい。
掴んでいない方の手が、私の顎をグイッと持ち上げた。
息も触れそうな程の距離にあるその鋭い目は、真っすぐに私を捉えていた。
その目は真剣そのもので、私はもうそれから逃げられそうにないと簡単に悟る。
抑えようと思っても全く抑えれない高まる心臓と、更に上昇する頬に熱。
「お前は、俺から逃げらんねぇよ」
そんな捨て台詞のあと、瞼が薄く閉じていく彰が視界を埋めて行く。
来るだろうキスに抵抗すればいいのに、私も釣られるように反射的に薄く目をつむってしまった。
……ほら、だから駄目だったのよ。
会えば流されるって分かってたから。
そんな事を心の中で呟いた時ーー
「あーママ見てー!あそこ、チューしてる」
そんな声が耳に飛び込んで来て、薄く閉じたばかりの瞼を最大限に開けた。
瞬間的に声のした方に視線を移すと、遠くから指を指す子供が目に入った。
何故かスッカリ忘れていた!
今は太陽の光がサンサンと差す時間で、ここは老若男女の憩いの場だって事を!
一気に恥ずかしさが込み上げて、今彰としていたやり取りを無かった事にしたい気持ちが込み上げた。
だからきっと、そのせいだろう。
この手が無意識に動いてしまったのは。
「ちょっ、おい!」
いきなり目の前の彰が大きな声を出すから、子供から視線を戻す。
するとそこには、スローモーションのように後方の噴水側に、落ちるように倒れて行く彰が目に飛び込んで来た。
「……えっ」
深い意味なんてこれっぽっちもない彰の言葉に、心は一瞬嬉しくなっては現実に気付いて落ち込んだ。
彰の一言だけで、こんなにも心乱れて踊らされる。
「バっ、…………馬鹿じゃないの?」
動揺してつい出てしまった『馬鹿』という言葉に、彰の反感を買ったと思っていたらーー
「本当に、馬鹿になれたらいいのにな……」
「え?」
誰もが思わず息を飲むほどに綺麗な顔が、じっとこちらを向く。
でも何をするわけでもなく、何を言うわけでもない。
何故か動かない彰に釣られるように、私も彰を見つめた。
程なくして静かになっていた噴水が、彰のすぐ後ろでまた音を立てて踊り出す。
その音が引き金になったのか、やっと彰が口を開いた。
「あぁ止めた。……もう俺、色々考えるの止める」
そう言い終わると同時に、掴んでいた手首がグイっと引っ張られて、引き寄せられて私の頬は彰の胸に当たった。
何が起きたのか理解出来ないうちに背中に手が回され、彰と私の間に空気なんて入る隙間もないくらいに強く抱きしめられた。
おろしたての服の香りと、私の大好きな彰の香りが鼻をかすめる。
その香りは私の肺に入って、全身に巡って、脳に回って私の思考まで侵されるみたいだ。
彰の香りは、まるで媚薬みたい。
たった数週間ぶりの彰の香りが、懐かしくて、酷く苦しいくて……思考を狂わされるくらいに愛おしい。
掴んでいない方の手が、私の顎をグイッと持ち上げた。
息も触れそうな程の距離にあるその鋭い目は、真っすぐに私を捉えていた。
その目は真剣そのもので、私はもうそれから逃げられそうにないと簡単に悟る。
抑えようと思っても全く抑えれない高まる心臓と、更に上昇する頬に熱。
「お前は、俺から逃げらんねぇよ」
そんな捨て台詞のあと、瞼が薄く閉じていく彰が視界を埋めて行く。
来るだろうキスに抵抗すればいいのに、私も釣られるように反射的に薄く目をつむってしまった。
……ほら、だから駄目だったのよ。
会えば流されるって分かってたから。
そんな事を心の中で呟いた時ーー
「あーママ見てー!あそこ、チューしてる」
そんな声が耳に飛び込んで来て、薄く閉じたばかりの瞼を最大限に開けた。
瞬間的に声のした方に視線を移すと、遠くから指を指す子供が目に入った。
何故かスッカリ忘れていた!
今は太陽の光がサンサンと差す時間で、ここは老若男女の憩いの場だって事を!
一気に恥ずかしさが込み上げて、今彰としていたやり取りを無かった事にしたい気持ちが込み上げた。
だからきっと、そのせいだろう。
この手が無意識に動いてしまったのは。
「ちょっ、おい!」
いきなり目の前の彰が大きな声を出すから、子供から視線を戻す。
するとそこには、スローモーションのように後方の噴水側に、落ちるように倒れて行く彰が目に飛び込んで来た。
「……えっ」
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!
ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。
そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。
真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。
彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。
自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。
じれながらも二人の恋が動き出す──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる