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遅すぎる自覚

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「まさか、今ここで返事する気?」
一瞬驚いた顔をすると、困ったように顎《あご》に手を当てて笑った。

「俺、あれからまだ何もして無いよ?だからもう少し頑張らせてほしいな。それに、ほら、こんなにも人目がある所だしね」

そうだった。
さっきまで周りの目が気になっていたはずなのに、急に三人の世界になってしまっていた。
「あっ……!ごめんなさい……」

こんな所で断られるなんて、恥ずかしいよね。嫌だよね。

正直、この前までは少し迷いがあった。
でもやっぱり私はアキラだけが好き。
『頑張らせて』と言われても、もうこの気持ちは揺るがないって分かったから。

だから、今度タイミングみて話そう。

「行くぞ」
アキラは私の腕を掴んで強制的に歩かせようとする。



「あっ、待って。ユイユイが……」
そう言って振り返ると、ニヤニヤと楽しそうな顔をしたユイユイが何かを伝えようとしていた。

何かと思うと、口元が、が  ん  ば  っ  て、と動いた。

何を頑張ればいいのよ。
と心の中で思っていると、ユイユイの隣にいたタカシお兄ちゃんは悔しそうな顔をしてからとんでもない爆弾を投げて来た。

「アキラー。婚約者の服部さんの返事返しておけよー」


その言葉に、驚きで息が止まる。
それと同時に足が止まった。
私が先に止めたのか、アキラが先なのか分からない。

……え?
婚約……者?
何それ。

嘘だよね?
だって、そんなの聞いた事ない。


いつの間にか2人して足を止めていて、私は隣のアキラをそっと見上げる。
困ったように顔を手で隠すようにおおうアキラは、静かにため息を付く。


その姿に嫌な予感が湧かないわけがなかった。

何かの間違いであって欲しい。
でも、そんな私の願いは虚しくも打ち消される。

「分かった」
そう一言、タカシお兄ちゃんに背中を向けたまま面倒くさそうに呟くと、再び歩き出す。

一瞬で半分抜け殻になった私は、引かれるように歩かされながら二人を振り返る。

そんな私に、タカシお兄ちゃんはニコニコして手を振って、その隣のユイユイが心配そうな顔を向けていた。


…………

……

呆然としたまま、大学すぐ近くに停めていたアキラの超高級車に乗り込まされる。

タカシお兄ちゃんの言葉に『分かった』と返事をしたって事は、服部はっとりさんという婚約者がいるというのは事実で……。
しかも最低でも連絡を取るような仲なのは間違いなくって……。


あぁ、駄目だ。
なんか、今、アキラと一緒に居たくない。

なんで黙ってたの、とか、色々問いただして責めてしまいそうで……。
ただの犬だって分かってるのに。
責めれる立場でもないのに……。

でも、婚約者がいるのに、何してんの?


「アキラ」
呼ぶとエンジンを付けながら返事をする。
「何?」

「婚約者……なんて、いたんだ」
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