犬、やめました。【コミカライズ企画進行中作品】

遅すぎる自覚

2

「……えっ。それ……本当ですか？」
頭が混乱する。

私を玩具にしたいアキラが、私の学費を払った？
……なぜ？

「どうしてアキ……東十条さんが支払ったんですか？」
「理由はこちらでは分かりかねます」

「でも学費って引き落としですよね？事務室で払えるんですか？」
「原則引き落としになりますが、それはあくまでも原則ですので……」

それだけで意味が分かった。
アキラお馴染みの特別待遇なんだと。

納付日を聞くと、ちょうどあの私が高熱を出した日だった。

どうして？
じゃああのホテルに来る前？
……ううん。そんな時間なんて無い感じがする。

じゃあ、あのホテルの後？
あんなに怒って、軽蔑した目を向けてきたのに、どうして……？


そんな事が頭にグルグルと渦巻くけど、答えなんて出ない。

気が動転したまま事務室を後にした私は、すぐに電話を掛けた。


プルルル……と鳴り続けるだけの電話に、緊張感と小さなイラつきを感じ始めた頃、電話会社から一方的に切られてしまった。

ツーツーと言う音が流れる中、頭を抱えた。
「そう、だよね……」

私が関わらないでって言ったんだから。

でも、これとは話が別だよ。


混乱しながら大学を出て電車に乗った。


そして家路についているはずだったのに、気付けば私は――
アキラが住むタワマンの前にいた。



高級感漂うタワーマンションを見上げる。

また、足が勝手に向いてしまった。
自分で言うのもあれだけど、大学からすぐだからって普通、あんなのがあった後に来るなんて……私ってどうかしてるよね。

本当に、どうして私の手足はこんなにも行動的で素直なんだろう。
私の思考や口も見習ってくれればいいのに。

ここで待ち伏せしてアキラに会えたところで、昨日、カフェで見た感じからすると、まともに話しをしてくれる感じではないだろうな。

……でも、学費を払ってんだよ？私が知らない間に。
さすがに黙ってるわけにはいかないし、意味分かんないじゃん。

正直今回は助かったけど、ちゃんと理由を聞いて、さっさと返金したい。


そう思った時、私の横を通り過ぎた人物からふわりとあの香りがした。

その香りに吸い込まれるように振り向くと、そこにはスラッと背が高くて品のある後ろ姿があった。

「……アキラ？」